2023年、朝日新聞社が運営するベンチャーキャピタルのアメリカ拠点に赴任が決まり、ベイエリアにやってきた白石健太郎さん。新しい人に出会い、新しい考え方に触れるのが好きで仕事とプライベートをあまり区別していないという白石さんに、ベイエリアでの現在の暮らしや日本との違いについて話を伺った。

ベイエリアに住むことに
なったきっかけ
2023年、朝日新聞社が運営するVCファンドの米国拠点に着任することになり、シリコンバレーに移りました。もともと拠点がここにあり、前任者との交代で赴任しました。日々、現地スタートアップへの投資を通じて、次の挑戦を形にしようとする起業家たちと向き合いながら働いています。あわせて、日本発スタートアップの北米進出を後押しする機会にも携わっています。
ベイエリアに最初にきた時の印象
最初に感じたのは、「人との距離が近い」ということでした。初対面でも気軽に話しかけてくれるし、どこかフラットでオープンな雰囲気がある。肩書きや会社よりも、「今どんなことをやっているの?」という話題から入る人が多くて、最初は少し戸惑いつつも、すぐにその空気が心地よくなりました。
ベイエリアの今の印象
住んでみて一番感じるのは、人のあたたかさです。初対面でも自然に話しかけてくれるし、何気ないやりとりに優しさがある。仕事でよくニューヨークにも行きますが、ベイエリアは圧倒的に気さくな人が多いなと思います。天気も穏やかで、のんびりした雰囲気があって、暮らしていて肩の力が抜けるような場所です。
あなたにとって、ベイエリアはどんな場所ですか?
余白があるのに刺激もある、不思議とバランスのいい場所です。仕事では日々新しい発見があって、自分自身も成長できていると感じますし、子どもにとっても、いろんな文化や価値観にふれる機会が多く、良い経験になっていると思います。自分にも家族にも、プラスになることが多い場所です。
どんなお仕事をされていますか?
日米のスタートアップを対象にしたベンチャー投資をしています。形になる前のアイデアでも、どんな課題をどう解決しようとしているのかを見て、将来の可能性を判断しながら投資しています。特にシードと呼ばれる初期段階の企業が多く、チームがまだ数人、プロダクトもこれから、というフェーズが中心です。単に出資するだけでなく、事業や採用、海外展開の相談に乗ることも多く、いわゆる“伴走型”の投資スタイルです。拠点はベイエリアですが、日本側の投資もリモートで並行して行っています。

あなたにとって仕事とは?
私にとって仕事とは、「成長の機会そのもの」です。新しい人や考え方に触れることが好きで、それが自分にとっての成長にもつながっています。仕事とプライベートを分けない働き方が自分には合っていて、日本にいた頃からずっとそのスタイルでやってきました。
英語での成功体験、失敗体験
失敗は日常茶飯事です。たとえば、起業家に「このビジネスモデルってどう広げていくのですか?」と聞きたかったのに、つい “Is that really going to work?”(=それってうまくいくの?)と言ってしまい、場が一瞬凍りついたことがあります。逆にうれしかったのは、ある起業家に「あなたは言葉じゃなく、意図をくみ取ろうとしてくれるから話しやすい」と言ってもらえたとき。英語のうまさより、ちゃんと向き合う姿勢が大事なんだなと実感しました。
どんなおうちに住んでいますか?
パロアルトの住宅街にある一軒家を借りて暮らしています。庭で子どもと遊んだり、学校の保護者仲間や、起業家や投資家仲間たちとBBQをしたり。仕事とプライベートが自然に混ざる、ちょうどいい暮らし方ができています。派手さはないけれど、静かで落ち着いた環境で、家族みんな気に入っています。

ベイエリア、および近郊で
好きな場所
アラメダで毎月開催されるアンティークフェアが大好きです。広い敷地にビンテージの家具や雑貨、古着、アメリカンキャラクターグッズがずらりと並びます。掘り出し物のTシャツやフィギュアを探して歩く時間は、ちょっとした宝探しのようでワクワクします。
お気に入りのレストラン
アメリカンダイナー系が好きなのですが、こっちに来てからずっと通ってるのは「テキサス・ロードハウス」。子どもがあそこのパンとステーキにハマっていて、「今月まだ行ってないよね?」って、毎月のように言ってきます。店員さんも元気で、行くだけでちょっと楽しい気分になります。
よく利用する日本食レストラン
よく行くのは「くら寿司」です。子どもが大好きで、テキサス・ロードハウスの次によくリクエストされます。息子は「びっくらポン」を回すために、とにかくマグロだけを食べ続けるという変わった楽しみ方をしています。
もし、100万ドル当たったら
まずは家族とゆっくり過ごす時間を作りたいです。その後は、中高生のチャレンジを応援する活動に使いたいと思っています。若い世代が夢を追いやすい環境を広げられたら嬉しいですね。あとは趣味のスターウォーズグッズ集めもあって、コレクションをさらに充実させたいですね。
最近日本に戻ったときに感じたこと
SNSの影響力がさらに強くなっているなって思いました。声の大きい人がより目立ち、社会の動きにもすごく影響している感じです。でも、自分の意見を言うとけっこう反発されることもあって、その空気がちょっと怖いなと思うこともあります。いろんな意見を受け入れつつ、自分の考えをしっかり持つのが、今まで以上に大事なんじゃないかなって感じています。
日本へのお土産は何を
持っていきますか?
近くにはグーグルやアップル、NASAがあって、そこでしか買えない限定商品をお土産にすることが多いです。珍しいものなので喜んでもらえますし、自分も選ぶのが楽しいですね。
日本から持って帰ってくるもの
子どもの本をよく持って帰ります。特に『かいけつゾロリ』や『サバイバルシリーズ』はアメリカで売り切れが多く、手に入りにくいので探して持って帰っています。あとは宮崎県都城市の福島精肉店が作る「極上スパイス喜(よろこび)」も愛用中。週末のBBQで使うと好評で、家族の生活を豊かにしてくれています。
ベイエリア生活で不便や不安を感じるとき
意外と不便を感じるのは、ネットでできるはずの手続きが、結局は電話対応を求められることがある点です。さらに携帯に営業電話が多くかかってくることもあり、特に忙しいときに何度もかかってくると困ります。もう少し電話が減ると助かるなと思っています。基本的には安心して暮らしていますが、近所で泥棒が入ったという話を聞くとやっぱり不安になります。また、意外とインフラが弱くて、年に数回ブラックアウトが起きることも気になるところです。そうしたこともあって、普段から備えを意識しています。
おすすめの観光地
「シカモア・スプリングス」です。日本の温泉ほどではありませんが、硫黄の匂いがして、限りなく近い体験ができます。近くにはブルワリーやスリフトショップもあり、のんびり楽しめる場所です。
5年後の自分に期待すること
いずれ日本に帰る時が来ると思いますが、そのときにはアメリカでの経験を活かして、日本の若手起業家が海外に挑戦しやすい仕組みを整えたいです。日本のスタートアップやこちらの起業家、投資家同士の交流を促進し、より良い環境づくりに貢献できればと思っています。
プロフィール
白石 健太郎
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Kentaro Shiraishi
武蔵工業大学卒業後、朝日新聞社に入社。営業や新規事業開発を経て、2017年に朝日メディアラボベンチャーズを立ち上げ、日米のスタートアップに投資。2023年よりAsahi Shimbun America, Inc.のバイスプレジデントを兼務し、ベイエリアを拠点に、現地と日本発、両スタートアップをつなぐベンチャー投資に取り組んでいる。