現在、コンテンツクラウドを提供するBoxで働く桐原宏明さんは、ドットコムバブルの終盤をべイエリアで過ごし、その後、東京やロサンゼルスを経て、20年ぶりにベイエリアに戻って来た。そんな桐原さんに、現在のベイエリアでの暮らしや、仕事の変化についてお話を伺った。
ベイエリアに住むことに
なったきっかけ
ベイエリアには、2000年にスタートアップでの仕事を機に約1年間住み、その後2021年に再び戻ってきました。アメリカには幼少期から親の仕事の関係で行き来しており、1989年からロサンゼルスに移り住みました。その後、最初の勤務先がキャンベルにあったことから、ドットコムバブルが最盛期を迎えていた2000年にベイエリアで生活を始め、バブル崩壊に伴う会社の解散まで過ごしました。その後はロサンゼルスや東京を拠点に移し、現在の会社の日本法人から米国本社への転籍をきっかけに、約20年ぶりにベイエリアへ戻りました。
ベイエリアに最初にきた時の印象
ドットコムバブル期ということもあり、システム開発に必要なものは会社がすべて用意してくれる環境でした。例えば「ユンケルが欲しい」と言えば、数日後には会社に並んでいる、といった具合に。一方で、創業初期のスタートアップだったため、皆、寝る間も惜しんで仕事に打ち込んでいました。また、スターバックスで知り合った方と自然にビジネスアイデアを語り合うことも日常的にあり、刺激的な環境でした。
ベイエリアの今の印象
2000年当時と比べると、仕事の進め方がより洗練されたと感じます。仕事量は相変わらず多いものの、職場での時間の流れは圧倒的に速く、いかに効率的に進めるかを常に考えている印象です。一方で、プライベートの時間はゆっくりと流れており、メリハリを持って人生を楽しむ時間を最大化しようとする意識が強いように思います。
あなたにとってベイエリアはどんな場所?
ウェイモ、ズークス、チャットGPT、テスラなど、常に新しいものやアイデアが生み出される場所であり、新しいものが好きな僕にとっては常に新鮮さを与え続けてくれます。また、ここでは「Think out of the box」つまり枠にとらわれない発想を自然に促してくれる環境でもあります。
どんなお仕事をされていますか?
現在、Boxというファイルの管理や共有、業務の自動化を支援するクラウドサービスを提供する会社で働いています。お客様に長くご利用いただけるようサポートすることが、私の担当する「カスタマーサクセス」の主な役割です。具体的には、Boxを活用してセキュリティを強化し、業務の効率化を図ることで、大手企業から中小企業まで、幅広いお客様のビジネス成長を支援しています。
その道に進んだきっかけ
学生時代、ちょうどインターネットが普及し始めた頃にコンピューターに興味を持ちました。その後、コンピューターサイエンスを専門に学べる短大でプログラミングを学び、シリコンバレーのスタートアップで働いていた友人に誘われたことが、テック業界に進むきっかけとなりました。
英語を使って仕事をすることについて
日本でも英語を使う機会はありましたが、久しぶりに現地で英語を使って仕事をすることになり、ベイエリアに戻ってきた当初は文法や発音に少し苦労しました。ただ、移民が多いベイエリアでは特に、「伝えようとする姿勢」と「ある程度意味が通じること」が大事で、多少の間違いや発音を気にする人はほとんどいない、ということを改めて実感しました。
英語での成功体験、失敗体験
幼少期に日米を行き来した経験のおかげで、英語はネイティブレベルで話せるようになりました。そうした環境を与えてくれた両親には、心から感謝しています。一方で、久しぶりにアメリカで働き始めた際には、「Hail Mary」や「Low-hanging fruit」といったビジネス慣用表現を覚えるのに苦労しました。リモート会議では、天候やスポーツ、ネットフリックスなどの時事ネタを押さえ、雑談を円滑に進めるよう心がけています。また、会食ではバーベキューやDIYなどアメリカならではの話題が多いため、日本の食や文化、ポップカルチャーへ自然に話題を切り替える工夫をしています。
あなたにとって仕事とは?
自分の時間を使ってお金を得る活動であると同時に、仲間とともに同じゴールを目指し、自分のコンフォートゾーンを超えて成長する機会を作り出す場だと思っています。その中で、最終的に社会的な意義を生み出したり、自分自身も楽しめるよう心がけています。
子どもの頃になりたかった職業
車を自由に操れることがすごいと感じていたので、車を運転する仕事、例えばタクシーの運転手になりたいと思っていました。今でも車の運転は好きで、ドライブはリフレッシュできる時間になっています。
もし、今の仕事に就いていなかったら
両親が航空会社で働いていた影響もあり、航空関係の仕事に就いていたかもしれません。子どもの頃から日米を行き来していたこともあり、飛行機や空港が身近な存在で、自然と興味を持っていました。
休日の過ごし方
友人と飲みに行ったり、サンフランシスコ湾でセーリングを楽しんだり、妻と一緒にトレッキングやコンサート、ワイナリーに出かけたりしています。ただ、たまに仕事のスラックをチェックしてしまうこともあります。
ベイエリアで好きな場所
サンフランシスコ湾です。日本にいた頃からマリンスポーツが好きだったこともあり、友人との会話を楽しんだり、広々とした湾の中にいるととても心が落ち着きます。また、水上から普段とは違う角度でベイエリアを眺めることで、新たな発見があるのもこの場所の魅力です。
お気に入りのレストラン
ダウンタウンサンノゼにあるポルトガル料理の「Petiscos」です。ミシュラン一つ星レストラン「Adega」を経営するファミリーが手掛ける、よりカジュアルな雰囲気のお店です。日本人にも食べやすいポーションで、特に魚介料理が絶品。シンプルながら奥深い味わいで、一度訪れるとまた行きたくなります。サンフランシスコでは「Yank Sing」の飲茶がおすすめです。週末は特に混雑するため、予約必須です。
もし、100万ドル当たったとしたら
まずは家族と豪華な旅行をして楽しみたいですね! その後は、ほとんどを投資に回して、長期的な資産運用で将来に向けて安心できるよう有効活用したいと思います。
日本へのお土産は何を持って
いきますか?
コストコで買えるフェレロ・ロシェのチョコ48個入りをよく持っていきます。お買い得で個別包装されているため、配りやすくて重宝しています。また、少しかさばりますが、ターゲットやアマゾンで購入できるハーニー&サンズのお茶もよく持っていきます。
日本からベイエリアに
持ってくるもの
テニスやランニングなどのスポーツ用品です。日本のスポーツ用品は質が高いので、帰国時によく買い揃えています。
現在のベイエリア生活で
不便を感じるとき
強いて言えば、RTO(Return To Office)の影響もあり、最近の渋滞が気になるようになりました。一方で、ディーゼル車両から電化されたカルトレインは快適で、通勤の良い選択肢として利用しています。
現在のベイエリア生活で不安に感じること
とどまることのない住宅費の高騰が大きな不安です。また、地球温暖化の影響を目の当たりにする機会が多いことも不安の一つです。明らかに以前とは異なる天候や、山火事のリスクが高まる中、住宅保険から撤退する保険会社が増えつつあること、さらにナパのワイナリーでの影響を聞くと、環境問題の深刻さを改めて実感します。
5年後の自分に期待すること
今よりも大きな仕事に挑戦し、さらに多くのことを学び成長している自分でありたいと思っています。また、オーロラを見ることが私のバケットリストの一つなので、太陽の活動周期が活発なこの2年ほどの間に、イエローナイフを訪れることも目標にしています。
プロフィール
桐原 宏明
/
Hiroaki Kirihara
日本生まれ、ロサンゼルス育ち。シリコンバレーのスタートアップでウェブ開発に従事した後、2003年に帰国し外資系企業で経験を積む。2017年にBox Japanに入社、2022年から米国本社に転籍。現在は米国顧客を中心に、Fortune 500企業を含む顧客の成長とサービスの利活用を支援している。