〜桜〜
桜の季節は日本の四季の中でも最も鮮やかなものです。桜の風景を求めて家族や友と花見に出かけるのに心が浮き立つ、春の到来は喜びでもあります。
日本には古来より桜を詠む名歌も数多くありますが、江戸時代の大学者の本居宣長は、山桜を愛し、「敷島の 大和心を 人問はば 朝日にほふ 山桜花」という歌を詠んでいます。宣長の情感は、四季に移ろいゆく風情などによって生じるしみじみとした情緒を表す「もののあはれ」そのもので、日本人の桜への特別な感情移入を表しています。今年の宮中歌会始では、「かの日々に 移り来し人 等耕しし 大和と呼ぶ里 アマンドの花」とのロサンゼルス在住の川崎ハルコさんの短歌が入選していました。昔の日系人はアマンドの花を桜に見立て故郷を懐かしんでいたのでしょうか。
戦中や戦後の日本町苦難の歴史を経た上で、1968年に北加桜祭りを開始された方々の「桜」祭りへの思いは特別なものだったでしょうし、私も感じるところがありました。それにしても、カブキホテルからカブキシアター、北加日本文化コミュニティセンターまで、サンフランシスコ日本町はどこも人、人、人、と大変な賑わいでした。日系人の頑張りがサンフランシスコの風物詩として定着していること、また日本ブランドに、日本の外交官として改めて誇りを感じた次第です。
私も6つのイベントに参加し、5つの場でスピーチをしました。7日のクイーン・プログラムはコミュニティの象徴となるクイーンを選出する大会ですが、明治の詩人与謝野晶子の「清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢ふ人 みな美しき」という短歌に込められた情感を紹介しました。13日の開会式では、日米交流の歴史的文脈の中で桜祭りへの期待を表明しました。19日のフレンドシップ・レセプションでは、サンフランシスコおよび近隣市、そしてロサンゼルスやハワイ、さらには日本からの来訪者を前にネットワークと草の根交流の貴重さを強調しました。
20日の樽神輿お祓い式は沿道の方々に対し、神輿は日本の祭りの象徴で、神輿が揺れれば揺れるほど神輿に宿る神霊から幸せをいただけるので、パレードに来て声をかけ神輿を揺らしてください、と呼びかけました。21日のシニア・アプリシエーション・ブランチでは、現在の日系世代や日本人にとって先達の日系人達の貢献は計り知れず、総領事館としても、日系人の歴史と貢献を伝え、日系人と日本人の対話・協力を進めたいと申し上げました。21日午後のグランド・パレードは、我々夫婦もオープンカーに乗るのが初体験で照れくさく、でも沿道から手を振る子ども達の姿に一所懸命に手を振り返しました。パレードは日本町関係団体から柴犬まで、様々な団体が参加していましたが、やはりハイライトは樽神輿。100人以上の男女が担ぐ神輿は樽3段立てで、上に乗る3人の猛者達が担ぎ衆そして沿道の観衆に掛け声をかけ、祭りの盛り上がりは最高潮に。春の華でした。
さて、4月9日から11日に岸田総理がワシントンDCを訪問しました。総理が連邦上下両院合同会議で行った演説は会場を沸かせましたが、日本の友情の証として2026年に建国250周年を迎える米国の一層の発展を祈念し、250本の桜の寄贈を決定したことも発表されました。
21日のサンノゼ日系祭りには岸守首席領事が、27日のクパチーノの桜祭り開会式には私が参加。両祭りとも、日本や日系人の文化が継承されていることへの喜びと、新世代リーダーが灯を受け継いで盛り上げてくれていることへの感謝を表するとともに、姉妹都市などの草の根交流の大切さを強調させていただきました。
4月は、桜、桜であっという間に過ぎましたが、今回は当地に赴任して半年強、色々な方にお会いできて、コミュニティの全体像がよくわかりました。知り合いの皆さん、初めてお会いした皆さん、各地の実行委員会の皆さん等色々な方の笑顔が素晴らしく、拝見できてとてもよかったです。
ありがとうございました!
在サンフランシスコ日本国総領事 大隅 洋(おおすみ・よう)
1966年生まれ。東京大学経済学部卒業後外務省入省。経済安全保障課課長、在英日本大使館公使、在イスラエル日本大使館次席公使などを歴任。COVID19期間中は東京にて大臣官房審議官等を務める。2023年9月、在サンフランシスコ日本国総領事として着任。茶道を嗜み、旅行、読書、マリンスポーツを愛好。著者に「日本人のためのイスラエル入門」(筑摩書房)。
領事館のホームページでは、
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「総領事便り」を掲載しています。
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