無人車が走る街角で 「ロボタクシー」の最前線

サンフランシスコやシリコンバレーでは、センサーを搭載した無人の自動運転車(ロボタクシー)が静かに走る光景がすでに日常の一部になりつつあります。交差点を曲がるその姿に、観光客の関心を引く場面もあるようです。特にグーグル傘下のウェイモはその代表格です。一方、アマゾン傘下のズークスは2023年にフォスターシティーとサンフランシスコで無人走行テストを開始し、社員向けシャトル運行を始めました。2025年にはテスラやフォルクスワーゲン(VW)も事業展開を本格化しはじめ、ロボタクシー市場は新たな局面に入りつつあります。なお、カリフォルニア州DMVが発行する、ドライバー乗車なしでの「無人走行テスト許可」は、2018年に2社だったのが2024年には22社まで増え、規制の中での技術検証が急速に進められています。そして、実際のサービスの認可にあたる、「無人運行許可」を取得した企業は、2025年7月時点でウェイモ、ズークスなど6社に達しています。公表データによると、無人運転車両の走行実績には企業間で大きな差があり、その開発フェーズの違いが浮き彫りとなっています(図参照)。本グラフはカリフォルニア州DMVの「Driverless Testing」制度下での実走行距離に基づくものであり、登録外のテスラなど制度外企業は含まれていません。今回は、主要企業の戦略と課題を紹介してまいります。
ウェイモ 先行するロボタクシー
10年以上にわたり自動運転技術を磨き、現在ではアリゾナ州やCA州の特定エリアで人間の介入なしに走行可能なレベル4の商用ロボタクシーを展開。LiDAR、カメラ、レーダーを組み合わせたシステムにより、高度な環境認識と信頼性を確保しています。今後、未対応の高速道路の走行や、高精度マップと走行データの蓄積の上のサービスエリアの拡大など、全国展開へ向けた更なる開発が期待されます。
テスラ“Vision-only”戦略と今後の進化に期待
2025年6月、テキサス州でロボタクシーの試験運用を開始。同社の最大の特徴は、LiDARやレーダーを使わず、カメラのみで環境を認識・運行する“Vision-only”方式の採用です。この設計はコスト効率に優れ、量産にも注目が集まっていますが、視覚情報に依存するため、夜間や雨天での認識精度向上に向け、AI技術の進化が注目されます。現在は助手席に安全モニターが同乗し、完全無人運行には至っておらず、SAE基準ではレベル4とは見なされていない状況です。カリフォルニア州での運行は未許可ですが、テキサス州の試験走行の様子はSNSに多数投稿されており、スムーズな走行例とともに、急停止や誤認識の場面も見られます。技術の進展と課題に関心が集まっています。
テスラ方式今後の技術課題:
・センサーの補い合いによる強化に加え、AI認識技術の進化が鍵
・雨天・夜間・複雑な交通環境下での認識精度向上が求められる
・州ごとの運行規制への対応体制が今後の展開に影響
多様なロボタクシー像
VW:電動マイクロバス型の「ID. Buzz AD」を発表予定で、2027年からウーバーへの車両提供を計画中。レトロな車体は観光やファミリー利用にも適しており、新しい移動体験を提案。ただし、現時点ではカリフォルニア州での運行許可は取得していません。
Zoox:2023年に開始した無人走行テストに加え、2024年3月にはカリフォルニア州DMVから「商用無人運行」許可を正式に獲得。ステアリングも前後の区別もない、両方向走行可能な独自設計の車両が、限定区域とはいえ、公道で商用運行を許可されたのは初めてのケースです。
Nuro:当初は、荷物の無人配送に注力していましたが、現在では、乗客輸送、個人向け車、そして物流の3領域に事業を拡大しており、将来的にはロボタクシーとしての展開も視野に入れているようです。その一環として、カリフォルニアやアリゾナ、テキサスなどでレベル4の技術実証も進行中であり、物流と人の移動の双方に対応できる自律移動プラットフォームとして進化を遂げつつあります。
クルーズの教訓
GM傘下のクルーズは、2023年の事故対応の不備でカリフォルニア州での運行を停止。社会との信頼関係の構築に大きな課題に直面した。この事例は、今後「走れるか」よりも、「社会に受け入れられるか」がロボタクシー普及の鍵であることを示しているように感じます。
今後、ますますのサービス拡大が期待されるロボタクシー。その行方に引き続き注目していきたいと思います。
冨田 裕司(とみた ひろし)
米国シリコンバレーに駐在18年にわたり、日本企業のR&D会社の代表を務める。2017年5月日本貿易機構(JETRO)と国立情報学研究所(NII)の共同事務所・シリコンバレーオフィス設立に伴い、NIIオフィスRepresentative、JETRO/Directorに就任。熊本県出身。
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