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柳家東三楼の「Break a leg 落語の時間ですよ」Vol.44

2025.03.19

配信

くしゃみ講釈

 三寒四温という言葉がありますね。これは冬の季語だそうですが、早春に使われます。日本では3月に入った頃に高気圧と低気圧が順番にやってきて、寒い日が3日続くと、暖かい日が4日くるといった具合で、今ちょうどそのような季節です。去年まではニューヨークで春を迎えていたので忘れていましたが、今年は6年ぶりに日本で春を迎えて、一気に花粉症が出てきました。少し外を歩いただけでくしゃみと目の痒みが出ます。近所の耳鼻咽喉科で薬をもらい治っていますが、飲み忘れた時の連続して止まらないくしゃみは、外にいる時ですと、とても恥ずかしいです。

 落語には「くしゃみ講釈」や「あくび指南」という人間の生理を描く噺があります。これは、いかに「くしゃみ」や「あくび」を本当っぽくやるかが肝なのですが、人間の営みの中にある生理現象さえ表現の対象にする落語に庶民の眼差しを感じます。

 子どもたちと「あくび指南」をする時には、普段の生活で人がどのようにあくびをするかを見ていると落語も上手になるし、面白いよ、と指導しています。電車に乗っている時、レストランで食事を待っている時、授業中、退屈だなと思った時に息抜きにでも周りの人を観察してみる。そして、それを落語でまねする、表現してみる、ここに面白さがあります。また、落語は自分とは属性が違う人物、例えば年齢や職業が違ったり、もっと言うと動物を演じることで、自分ではない人の気持ちを考えます。私の一門、柳家では人間国宝の五代目柳家小さんの言葉「たぬきの了見」になる、のが奥義です。そんなもんわからねえよ、と思われるかもしれませんが、それを想像してやるから面白いのです。

 子どもたちが落語をする良さの一つは、他人、自分でない人の気持ちを考えることで思いやりが生まれたり、人の気持ちが分かるということです。今はさまざまな技術が進んで、人と接することが少なく、薄くなってきている時代です。それでも人間は営みを続けています。機械に取って代わられないものが人の気持ちです。相手の気持ちが分かり、尊重し合う事で幸せのような暖かい気持ちを共有できるのが、何より人生の良いことです。

 くしゃみの観察を通してさえ、人の置かれた状況や気持ちを考えられる、そのへんに落語の面白さがあります。


柳家東三楼(やなぎやとうざぶろう) 落語家歴26年。真打として日本全国で落語を披露する中で世界中の人に落語を知ってもらいたいと、2019年よりアメリカへ移住。現在はNYのブルックリンを拠点にアメリカにてすでに200回以上の公演を行う。50州すべての州にて落語公演を実施することを目標に、日々精力的に活動中。

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