日本にいながら世界の消費者とつながる
〜クラウドファンディングを活用した日系スタートアップの取り組み〜
2020年、SNSを騒がせた自転車「スーパーストラタ」をご存知でしょうか。Arevoというシリコンバレーのスタートアップが3Dプリンターを使って開発した世界初のユニボディ・カーボンファイバー製スポーツバイクです。世界最大級のクラウドファンディング「インディゴーゴー」で720万ドルを調達したことで話題を呼びました。
インディゴーゴーで
日本製品特設ページを開設
クラウドファンディングは、まだ確立されていない技術などを用い、新製品・サービスを開発するために、不特定多数のサポーターから資金を集める方法として急速に普及しました。しかし、近年は「消費者に受け入れられるかどうか」といったテストマーケティングの意味合いで利用されることが多くなってきています。特にキックスターターと並ぶ購入型クラウドファンディング「インディゴーゴー」は、資金調達に成功した商品を販売し続けられるマーケットプレース機能を提供していることもあり、多くの外資系スタートアップが世界市場への参入手段として活用しています。「日系スタートアップも世界中の消費者と繋がってほしい」。そんな思いからJETROではインディゴーゴーと提携して、「Made in Japan」 ページを開設し、日系スタートアップの製品紹介をサポートしています。
非接触VRゴーグルに植物
由来のカンブリアンバッテリー
「Made in Japan」ページにはどのような企業が含まれているのでしょうか。まずご紹介したいのは非接触VRゴーグル「hemVR」。パンデミックの巣篭もりの中で、フィットネスバイクの購入を検討している人、またはすでに調達した人はいませんか。私の近所でも、庭やテラスにフィットネスバイクが多く設置されましたが、埃を被ってしまうこともしばしば。「hemVR」は、そんなフィットネスバイク初心者のためのプロダクト。
日本にいる家族や友だちと、顔を見ておしゃべりしながら、同じVR空間で、一緒にバイクを漕ぐことができます。まるで、日本にいる相手が、真横で漕いでいるようです。宇宙空間で敵を倒したり、鳥になって大空を羽ばたいたり、自宅のエクササイズが楽しいエクササイズに早変わり。100〜250ドル程度で購入できるVRゴーグルは、顔に非接触のため、汗がベタベタ、レンズが曇ることもありません。
次に紹介したいのは、植物由来のバッテリーを使ったポータブル電源です。コロナウイルスの収束につれて、ようやく外出できることにウキウキしている人も多いでしょう。RVを借りてキャンプに出かけるのも一案ですね。そんなアウトドア好きな方にお勧めしたいのが、8月以降受付予定のポータブル電源「Quve」。九大と共同研究をしてPJPEye株式会社が開発したした植物由来のカーボンバッテリーを搭載した「Quve」は、40分で急速充電が可能、バッテリー寿命は10年以上という優れものです。外出用だけでなく、山火事による停電の多い季節、防災用としても役立つかもしれません。興味がある人は是非、開発・製造元PJP Eye株式会社のHP(https://pjpeye.tokyo)をご覧ください。
商品が届かない例も、リスクを考慮した上で購入が必要
ユニークな製品が多いクラウドファンディング。まだ市場に出ていない製品が多いだけに、届かない例も多く散見されます。スーパーストラタも計画通り出荷がいかず、バッカー(製品を購入したサポーターのこと)もやきもきしている状態です。スタートアップにとって開発が遅れることは当たり前、遅延はあるものと考え、購入することをお勧めします。
一方、日本のスタートアップをお手伝いしていると、他国のスタートアップにはみられない特徴があります。「量産できる目処がたっていない」などの理由で、キャンペーンを遅らせることが多いのです。日系企業はスピードが遅いとよく言われますが、「消費者にしっかりとした製品を届けたい」という誠実さは美徳といえます。遅延や中止が多いクラウドファンディングにおいて、「Made in Japanページの商品だけはしっかりと届く」、そんな評判が広がればいいな、と思います。
ジェトロ・サンフランシスコ 樽谷 範哉
2001年JETRO入社後、シリコンバレー等でのインキュベーション事業立ち上げを担当。名古屋、トロント事務所、東京本部にてハイテク、製造業、スタートアップの世界展開プログラムに従事。2017年7月よりベイエリアにてイノベーティブな日系企業の世界展開をサポートしている。東京工業大学大学院修了。
日本の貿易、投資、開発途上国の経済支援などを総合的かつ効率的に実施するための中枢機関。サンフランシスコ・センターでは対日投資、ハイテク技術交流、ベンチャー企業支援、各種調査活動に力点を置いている。