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アメリカの法律 In-and-Out Vol.32

2026.09.16

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Vol.32 : ハミコ、親の相続を受ける!の巻

  皆さま、こんにちは。弁護士の戸木です。「ハミコ(仮名)、アメリカに来る」シリーズでは、彼女が日々直面する法律トラブルをご紹介しています。今回は、ハミコが日本に住む親の相続手続きをするときのお話です。

 ある日、父が危篤との連絡を受けたハミコ。仕事や家庭の予定を何とか調整し、急いで帰国しました。幸い、父の最期には立ち会うことができました。葬儀を終え、悲しみも癒えない中でしたが、日本にいるうちに相続手続きも済ませておこうと考えます。

 父名義の財産は、自宅、預貯金、投資口座。そして、昔、不動産業者の営業に押されて買ってしまった山奥の土地もありました。遺言はなく、相続人は母、兄、ハミコ、妹の4人です。カリフォルニアでは裁判所のプロベートが必要になる場合がありますが、日本では遺言がなければ、通常、相続人全員で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」を行います。家族だけなら話は早いはず――。

 まずは相続人を確認するため、父の出生から死亡までの戸籍を集めます。戸籍は結婚や本籍地の変更、制度の改正などで作り替えられるため、最後の1通だけでは足りません。父の場合、祖父母の離婚も関係し、現在の戸籍から改製原戸籍(かいせいげんこせき)という古い戸籍まで、計5通になりました。

 現在は「広域交付」という制度があり、子であるハミコがパスポートなどを持って窓口に出向けば、本籍地が地方にあっても東京の役所でまとめて請求できます。ただし、コンピューター化されていない一部の戸籍などは対象外で、本籍地への郵送請求などが必要となる場合があり、その日のうちに全部揃うとは限りません。

 ここで、家族の知らなかった前の婚姻や子どもの存在が判明することもあります。他に相続人がいれば、その人を探して協議に加わってもらう必要があり、途端に大仕事です。今回は、幸い、他に相続人はいませんでした。

 さて、いよいよ分け方の話し合いです。ハミコと妹は、全て母に渡すか、法定相続分どおり母が半分、残りを子ども3人で等分すればよいのではと提案しました。ところが、両親と同居していた兄は納得しません。「これまで父を支えてきたのは自分だ。海外で好きに暮らしているハミコとは違う。自宅は自分がもらうべきだ」。しかも、自宅には固定資産税や修繕費がかかり、今後は母の介護のためのリフォームも必要なので、現預金も多めにもらわなければ割に合わない、と言うのです。

 アメリカでさまざまな苦労をしてきたハミコとしては、好きに暮らしていると言われても心外です。むしろ、実家を出ずに暮らす兄の方が楽だと思っていましたから、認識の違いに仰天しました。どうやら兄の妻にも、長年の同居や世話に対する不公平感があったようです。昔のように兄妹だけで話せば分かる、という状況ではありませんでした。

 もっとも、親と同居していたからといって、当然のように多く相続できるわけではありません。介護などによって父の財産の維持・増加に特別に貢献した場合には「寄与分」が問題になりますが、これから母にかかる費用とは別の話です。家族としての苦労と、法律上認められる取り分は、必ずしも一致しないのです。

 結局、母の生活を優先し、山奥の土地も含めて全て母が取得することで合意しました。ひとまず収まりましたが、母の相続のときには、また同じ兄妹で話し合うことになります。問題の先送りという気もしないではありません。子どもらが、自分に有利な遺言を親に作らせ合うという泥沼に発展することもありますが、これはまたの機会に。

 ようやく手続きを進められると思ったところ、今度はハミコ自身の提出書類でつまずきました。海外転出で住民票を抜いているため、印鑑証明書など、日本に住む兄妹と同じ書類を揃えられないのです。話合いが終われば完了、とはいきませんでした。この手続き上の苦労は、次回お話ししましょう。



戸木 亮輔(とぎ・りょうすけ)弁護士 
日本(第一東京弁護士会)、カリフォルニア州、ニューヨーク州弁護士。東京都内で弁護士として約8年間法律事務所に勤務した後、ニューヨーク州のコーネル大学ロースクールに留学。サンフランシスコで勤務弁護士の経験を経て、2024年1月よりKaname Partners US, P.C.を設立、開業。

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