Vol.17 : ハミコ、出廷する!の巻
皆さまこんにちは。弁護士の戸木です。「ハミコ(仮名)、アメリカに来る」という設定で、彼女が日々直面する法律問題をご紹介しています。今回は、刑事事件(飲酒運転、通称「DUI」)で起訴されたハミコが、裁判所に出廷する流れをご紹介します。
裁判所に到着したハミコは、まず入口でセキュリティチェックを受け、指定された法廷の前に掲示された開廷表を確認しました。そこには、「People of California vs. Hamiko」との記載が。アメリカでは、事件番号よりも「原告 対 被告」の形式で事件を特定するのが一般的です。刑事事件では、原告がPeople of California(カリフォルニア州民)であり、それを代表して訴追するのが検察官(District Attorney=DA)という位置付けになっています。
開廷時間は午後1時30分でしたが、実際に名前が呼ばれたのは2時30分頃でした。最初の手続はArraignment(アレインメント)と呼ばれ、日本でいう「冒頭手続」にあたり、人定質問(本人確認)、起訴状朗読、黙秘権の告知、罪状認否等が行われます。
日本では、被告が罪を認めた場合、有罪を前提に情状酌量の審理に進むのが通例ですが、アメリカでは司法取引(Plea Bargaining)が一般的です。このため、罪を認める場合でも、この段階では形式的に無罪(Not Guilty)を主張するのが通例です。ハミコも、飲酒の事実を争うつもりはないものの、無罪と答弁しました。
その後、1カ月後にPre-trial Conferenceが指定されました。無罪答弁をした場合、Trial(事実審理)に進むのが原則で、その前に争点を整理するために使われる期日なのですが、実務上は、司法取引を進める場としてPre-trialが使われることが多くなっています(呼び方や運用はカウンティによって異なります)。
アレインメントを終えた後、弁護士を通じて検察官に証拠開示(Discovery)を請求すると、逮捕に至った経緯や呼気検査の結果など、有罪の根拠となる証拠が確認できます。これにより、司法取引における交渉の余地や有罪主張の妥当性を判断することができます。争点は、罪を犯していないという点に限らず、違法な逮捕や捜索など手続上の問題にも及びます。
しかし、証拠からは無罪を主張できる要素が見当たらなかったため、次回期日では弁護士と検察官が合意した内容に基づき、ハミコが有罪を認めることで合意しました(実際にはNo Contest(不抗争)という答弁をすることが多いのですが、詳細は省略します)。具体的な刑罰は、禁錮4日、罰金約2000ドル、1年間の更生プログラムの受講というものでした。ただ、禁錮刑は高速道路清掃などの社会奉仕活動に代替可能とされましたので、拘置所に収容されることは避けられました。
司法取引による有罪答弁であっても、「有罪」であることに変わりはありません。ビザを保有している場合には取り消しのリスクがあり、将来の入国審査でも問題視される可能性がありますので、安易に考えないようにしましょう。
なお、呼気検査の結果が違法とされる基準に近かったり、手続きに曖昧な点があった場合には、更生プログラムへの早期参加や再発防止策の提示を通じて、起訴の取下げを求める余地もあります。この辺りは弁護士とよく協議しましょう。
刑事手続においては、通訳の手配も極めて重要です。日本では通訳の確保に時間がかかったり、裁判官の発言を待ってから訳す逐次通訳が主流で、審理が長引くこともしばしばです。一方、移民国家であるアメリカでは通訳対応が日常化しており(例えばスペイン語通訳は常駐していることが多い)、裁判所認定(court-certified)の通訳者による同時通訳が提供され、原則として費用も発生しません。言語の壁は、弁護方針や事実関係の理解に重大な影響を与えるため、遠慮せず通訳を依頼することが大切です。
あまり経験したくない手続きについて長々とご紹介してしまいましたが、こうした事態に巻き込まれないことが一番ですね。

戸木 亮輔(とぎ・りょうすけ)弁護士
日本(第一東京弁護士会)、カリフォルニア州、ニューヨーク州弁護士。東京都内で弁護士として約8年間法律事務所に勤務した後、ニューヨーク州のコーネル大学ロースクールに留学。サンフランシスコで勤務弁護士の経験を経て、2024年1月よりKaname Partners US, P.C.を設立、開業。