ローカルニュース毎日配信!

アメリカの法律 In-and-Out Vol.24

2026.01.14

配信

Vol.24 : ハミコ、遺言執行者に選任される!の巻

皆さま、こんにちは。弁護士の戸木です。「ハミコ(仮名)、アメリカに来る」シリーズでは、彼女が日々直面する法律トラブルを素材に、在米生活で起こり得る〝落とし穴”を解説しています。今回と次回は、善意で引き受けた友人の頼みごとに、想像以上に振り回されてしまったお話です。  


アメリカ移住から短くない時間が経ち、ハミコにも同じく日本から移住した友人が何人かできていました。ところがある日、親しかった友人が亡くなったという連絡が入ります。まだ50代。少し前から体調不良の話は聞いていたものの、思っていた以上に深刻で、ある日会社を無断欠勤したことを心配した同僚が自宅を訪ねたところ、廊下で亡くなっているのを発見した…いわゆる孤独死でした。  

そこでハミコは、数年前の出来事を思い出します。友人から「遺言」を預かっていたのです。しかも友人は、ハミコを「遺言執行者(Executor)」に指定したと言っていました。まさかその時が来るとは思わず、深く考えずに引き受けてしまったハミコ。これが、後からじわじわ効いてきます。問題は、その遺言が日本語で書かれ、証人の署名もなく、公証人(Notary)による認証も付いていなかったこと。これが有効なのかどうかすら分からず、ハミコは弁護士に相談することにしました。  

日本では遺言の方式が厳格で、自筆の場合、日付と署名に加えて押印も求められます(いかにも日本的です)。一方、カリフォルニア州でも方式要件はありますが、一定の要件を満たす自筆遺言(holographic will)は、原則として証人2名の立会いがなくても有効になり得ます。また、外国語(日本語を含む)で作成されていても、直ちに無効になるわけではありません。  

弁護士からの指示は明確でした。まず遺言を裁判所認定の翻訳者に翻訳してもらい、その訳文を添えて、原本を速やかに裁判所へ提出(lodge)すること。ハミコは裁判所に問い合わせて翻訳者の連絡先を探し、翻訳費用をポケットマネーで立替え、原本を抱えて裁判所へ駆け込みました。  

しかし、これで終わりではありません。トラストがあればプロベート(裁判所手続き)を回避できた可能性が高いのですが、友人が残したのは遺言のみ。結局、正式なプロベート手続きに入ることになります。弁護士に正式依頼するには着手金(Retainer)が必要で、最終的には遺産から精算されるとしても、まずは数千ドルのデポジットを求められました。ハミコの財布が、また(一時的に)痛みます。  

さらに、裁判所提出書類は弁護士が整えても、情報収集や裁判所外の実務は基本的に遺言執行者の役割。特に大変だったのが、相続人・利害関係者の所在調査です。通知を送るには住所が必要ですが、友人は家族と疎遠で連絡先が分からない。知人を頼って何とか電話をつなぎ、後継の遺言執行者についてはソーシャルメディアで探し当て、ようやく連絡が取れました。  

追い打ちをかけたのが補償供託金(Bond)の問題です。遺言執行者として選任されるためには、原則として保証供託金が必要になります。これは、万一遺言執行者が財産を不正に流用したり、重大な管理ミスで損害が生じたりした場合に、相続人等が救済を受けられるようにするための制度で、実務上は「保証保険(surety bond)」として手配することが一般的です。  

免除・放棄が認められる場合もあるのですが、本件では、遺言にBond免除の文言がなく、推定相続人から放棄書(Waiver)を集めても、相続人が国外にいることなどを理由に裁判所は通常どおりBondを要求。保険料(Premium)も数千ドル…。これも結局、ハミコが立て替えることになりました。  

こうして申立てが整い、相続人等への通知や、法律上必要な新聞公告も完了(ハミコの名前が地元紙に載りました)。裁判所命令により、ハミコは正式に遺言執行者に選任され、プロベートがスタートしました。もっとも、この時点で既に、費やした時間は優に十時間以上。ここからが本番です。  

遺言執行者に選任された後の〝現場仕事”『家、口座、残置物、そして国境をまたぐ相続税』は、次回ご紹介します。




戸木 亮輔(とぎ・りょうすけ)弁護士 
日本(第一東京弁護士会)、カリフォルニア州、ニューヨーク州弁護士。東京都内で弁護士として約8年間法律事務所に勤務した後、ニューヨーク州のコーネル大学ロースクールに留学。サンフランシスコで勤務弁護士の経験を経て、2024年1月よりKaname Partners US, P.C.を設立、開業。

この記事に関連する記事

一覧ページにもどる

share with ups!

新規会員登録

ベイエリアの求人・仕事情報・お知らせ・募集・不動産・個人売買情報はBaySpo!
無料で会員登録をすると、bayspo.comをもっと便利にお使いいただけます。

新規会員登録をする

サクッと読める!
BaySpoとeじゃんデジタル版をチェック!