対米投資の最前線 日米投資協力と各州の誘致競争
トランプ第二次政権の発足以降、米国では「国内投資回帰」を重視した産業政策が鮮明になっている。そうした中、日米両政府は、半導体、エネルギー、先端製造業、インフラなどの戦略分野を中心に、総額5500億ドル規模とも言われる投資協力の動きが進んでいる。
既に第2弾まで具体的な案件が発表され、人工ダイヤ製造、米国産原油の輸出インフラ整備、AIデータセンター向け電力供給を見据えたガス火力発電、小型モジュール炉(SMR)建設、天然ガス発電施設整備など、戦略分野で段階的に案件形成が進んでいる。米国各州も、自州案件をこの大型投資スキームに組み込むべく関心を高めている。
実際、米国では連邦政府だけでなく州政府が税制優遇、人材育成支援、土地供給、エネルギー政策など幅広い権限を持つため、州との関係構築が投資成功の重要な鍵を握る。どの州に進出するかによって、得られる支援やアクセスできる産業エコシステムが大きく異なるためである。ジェトロは北米に6拠点を有し、各州政府や地域経済開発機関とのネットワークを通じ、日本企業の進出支援を行っている。
SelectUSAに見る
米国の投資熱
こうした対米投資熱を象徴したのが、2026年5月4日から6日にかけて開催された米国最大級の対内投資イベント「SelectUSA Investment Summit」である。
会場には世界各国から5500人超の企業・政府関係者が集まり、米国市場への期待感が強く感じられた。特に印象的だったのは、ハワード・ラトニック商務長官による演説である。同長官は、「今こそ米国投資の好機」であると繰り返し強調し、製造業回帰、エネルギー政策、AI・半導体投資などを軸に、トランプ政権として投資環境整備を加速する姿勢を熱弁した。SelectUSAの特徴は、単なる投資セミナーではなく、各州がブースを構え、企業誘致を競い合う“投資見本市”の側面を持つ点にある。ジェトロ・サンフランシスコ事務所が所管するノースパシフィック地域でも、州ごとに明確な特色がある。
ワシントン州は航空・IT産業集積、オレゴン州は「シリコン・フォレスト」と呼ばれる半導体拠点、北カリフォルニアは世界最大級のイノベーション拠点シリコンバレーを擁する。アイダホ州ではマイクロンを中心に半導体産業が成長し、ネバダ州では電池・次世代モビリティ関連投資が進展している。さらにモンタナ州では、フォトニクスや量子分野などディープテック産業の育成が進みつつあり、州政府も新産業誘致に積極姿勢を示している。各州とも、自州の産業エコシステム形成に向け、日本企業との連携強化に大きな期待を寄せている。
州政府との連携が
対米進出成功の鍵
現在、日本企業の対米投資は、自動車や製造業のみならず、半導体、AI、量子、バイオといった先端分野へ急速に広がっている。カリフォルニア州では、半導体材料分野において、日米連携を強化する動きとして、半導体後工程分野の共同開発や技術連携が進展している。
また、フィジカルAI分野では、 川崎重工業株式会社 がロボティクスや自動化技術を活用した次世代産業への取り組みを強化しており、米国企業・研究機関との協業も注目されている。米国では、州政府が特定分野の産業クラスター形成を重視しており、半導体であれば研究開発補助金、AI分野であれば電力供給やデータセンター支援、人材育成プログラムなど、多様なインセンティブが提供されている。そのため、単独で進出を検討するのではなく、州政府や地域エコシステムと連携した戦略的な展開がますます重要となっている。
ジェトロ・サンフランシスコ事務所でも、州政府や大学、産業団体とのネットワークを活用し、日本企業の対米進出支援を行っている。特に今年9月には、モンタナ州への量子・フォトニクスミッション派遣を計画している。量子技術やフォトニクス分野の最新エコシステムを現地で確認できる貴重な機会となるため、関心を持つ企業・研究機関の皆様には、ぜひジェトロまでお問い合わせいただきたい。
小林 努(こばやし・つとむ)
日本貿易振興会入会後、松江、シンガポール、東京本部などで中堅・中小企業の海外展開を支援。2023年8月よりサンフランシスコ着任。米国スタートアップの日本進出、米国企業と日本企業の協業・連携支援を担当。
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