ジャパン・イノベーションキャンパス
スタートアップ支援の取り組み
ベイエリアではスタートアップが地域経済や日々の生活に深く関わっていますが、日本においても、スタートアップで働く人やスタートアップの製品を使う機会が増えてきました。政策的にも、日本のスタートアップの海外展開を促しつつ、海外の起業家や投資家等を日本に呼び込もうということで、海外に起業家を派遣するプログラムやシリコンバレーにおけるジャパン・イノベーションキャンパスの設立、海外の投資家を集めたグローバルイベント「MOMENT 2023」の実施や、日本で働こうとする外国人に対するスタートアップビザの制度改正などが行われています。
ジャパン・イノベーションキャンパスはパロアルト市にあり、経済産業省が主催し、森ビル株式会社が運営、海外展開を目指す日本のスタートアップの米国での資金調達や事業展開の支援や、日本企業と米国のスタートアップ・VCとの連携の支援を目的に、シリコンバレーにおける産学官との連携の拠点となることを目指して活動しています。ジェトロ・サンフランシスコ事務所としても、本年4月からこのプロジェクトに参画し、同拠点のメンバー企業へのビジネスサポートの提供や、交流イベント・ワークショップの開催などを行っています。これまでジェトロ・サンフランシスコ事務所として培ってきたネットワークに加え、当地のVCやスタートアップなどにアクセスを持つアクセラレーターなどと連携し、更に良質なサービスを提供しようとしています。
直近6月下旬の動きとしては、同施設に入居するメンバー企業向けのワークショップを開催するとともに、米国外からシリコンバレーに来て成功を収めつつある多国籍のスタートアップ創業者を招いたパネルセッションを開催しました。シリコンバレーで成功するためにはどのようにネットワークを築けば良いか、顧客と資金の獲得に向けどのように動いていくべきかといったテーマを巡って、白熱した議論がされています。
ジャパン・イノベーションキャンパスはメンバー企業が自社オフィスとして使える場所を提供しており、現在、52のスタートアップがメンバーとなっています。事業分野としては3割弱がIT、2割強がヘルスケア、加えて製造、フィンテック、コンシューマー向けなど、さまざまな分野のスタートアップが集まっています。現在、コワーキングメンバーを更に50社程度増やすべく、募集が始まっています(6月24日に開始し、締め切りは7月19日まで。詳しくはジャパン・イノベーションキャンパスのウェブサイトをご覧ください)。
今後、更に活動を加速・進化させるべく、メンバー企業数の増加に加え、スタンフォード大学と連携してのイベント開催や、シリコンバレーのローカルのスタートアップを集めた定期的なピッチイベントの開催などが予定されています。日本に加え、シリコンバレーで働くさまざまなスタートアップ関係者にも利用いただくことで、当地のエコシステムに貢献する場の一つとして育っていくことを期待しています。
ジェトロとしては、スタートアップの支援に向け、他にも様々な取組を行っています。昨年に引き続き、世界のトップアクセラレーターとともに、日本のスタートアップの海外展開を目指す支援するプログラムを実施します。特に今年度からの新たな取組としては、スタンフォード発のアクセラレーター「StartX」と連携してAIやサステナビリティにフォーカスしたスタートアップを支援するプログラムや、米国市場に参入準備が既に整っている企業向けに顧客への訴求力を向上させるプログラムなどを実施予定です。また、世界に目を向けつつ起業する人材の拡大を目指し、創業初期からグローバルに活躍できる起業家を目指している学生向けに、スタンフォード大学やUCバークレーと連携した教育プログラムも提供していく予定です。
日本のイノベーションの牽引役としてスタートアップを育てていくために様々なアプローチが必要ですが、スタートアップのエコシステムの先進地であるベイエリアを起点に、起業家の人材育成や、グローバル市場の開拓、ベンチャー投資家のレベルアップなどが進み、日本のスタートアップエコシステムが深化していくことを願っています。ジェトロの取組を日々サポートいただいている皆さまにこの場を借りて感謝を申し上げます。
安藤 元太(あんどう げんた)
JETROサンフランシスコ事務所に2023年7月に次長として着任し、AI分野などの産業調査やスタートアップ支援の業務を行う。当地への赴任以前は、経済産業省において、コーポレートガバナンス改革、M&Aに関するガイドライン策定や税制改正、電力システム改革等に携わる。