重要性を増す半導体・デジタル産業政策
7月11日より3日間、サンフランシスコダウンタウンにある展示場「モスコーン・センター」において半導体産業の展示会SEMICON West 2023が開催されました。同展示会は半導体産業に関わる関係者が集うものであり、今回は、半導体産業の一兆ドル市場への発展に向けたサプライチェーンの安定化、気候変動対策、人材不足対策など、世界のマイクロエレクトロニクス業界に影響を与える主要な課題が焦点でした。半導体製造企業だけでなく、それを支える製造装置企業や素材産業、さらにクリーンルームを製造する企業、工場施設内で使用する様々な装置や部品に関係するおよそ700社が展示に参加しました。
昨今の半導体不足や世界的なデジタル化の進展等、半導体がますます注目される中で開催された今回のSEMICON West 2023ですが、大変な活況を呈していました。
まさに注目されている半導体ですが、世界的に見ても、半導体や情報処理技術、情報通信技術は大きく進化を続けており、今後も情報処理量を拡大させながら、デジタル技術の活用が競争力の源泉となる時代は続いていくものと考えられています。昨年末から急激に成長している、Chat GTPに代表される生成系AIの登場や量子コンピューター、AIコンピューター等の情報処理の飛躍的な発展によって、データセンターにおける計算処理も更に圧倒的に拡大しています。そうした中で半導体の重要性はますます高まっております。
世界各国・地域も半導体・デジタル産業政策の重要性を認識し、経済安全保障等の観点から、積極的に半導体産業を支援する動きが出てきております。
例えば米国は、CHIPS法やIRA法を成立させ、半導体や蓄電池等の産業基盤強化を強力に推進しています。また欧州でも欧州半導体法案の成立に向けて動いている他、韓国も自国の競争力強化に向けた半導体戦略を発表しています。我が国政府も半導体、情報処理基盤、高度情報通信インフラ、蓄電池等の産業に関して、今後の政策の方向性を定めた「半導体・デジタル産業戦略」の改定を取りまとめ、2023年6月6日付で公表しました。
今回の改定では、国内で生産した半導体関連の売上高の目標を2030年に15兆円にすること、国内の半導体拠点整備に2年で2兆円ほどの予算を投じること等を織り込みました。いずれも我が国の半導体の安定的な供給を確保するための措置です。
半導体は、高度・高速・省電力なデータ処理・計算を可能にし、生産性向上や人々の社会生活の変革に大きく貢献してきました。2030年には、自動車や産業ロボットなどでのデータ処理がますます拡大し、研究開発や安全保障の観点からも計算能力が競争力の鍵となり、次世代の計算基盤の確立が必須となります。2030年に向けて、有志国・地域との協力関係を強化しつつ、産業界や社会に不可欠な製造基盤を確保・強化し、次世代計算基盤の実現に必要な技術を確立し、2030年の先を見据えてゲームチェンジとなる将来技術の開発に取り組むことが重要となります。
日本はかつて半導体産業で世界5割(1988年)のシェアを誇っていましたが、2019年には10%まで低下し、このままではゼロになるとの大きな危機感がありました。こうした危機的な状況を打開するためにも、今回改定された「半導体・デジタル産業戦略」は大きな意義を持っております。JETROサンフランシスコ事務所では当地ベイエリアで世界最高峰のアクセラレーションプログラムや大学、研究機関と連携してイノベーションを推進する人材やスタートアップの育成に取り組んでいます。
日本の半導体産業の発展のためにも役に立てるようさらにプログラムをブラッシュアップしていきます。JETROとしても産業界の皆さまのみならず産学官と連携し、この重要な戦略・政策の推進の一翼を担いたいと思います。
林 揚哲(はやし・ようてつ)
信託銀行、電力会社での新規事業立ち上げを経て2004年経済産業省入省。入省以来、金融、人材育成、モノづくり、小売流通、中小企業育成支援、通商などの政策分野に携わる。2022年10月よりジェトロ・サンフランシスコ事務所長