Vol.15 : ハミコ、逮捕される!の巻
皆さまこんにちは。弁護士の戸木です。「ハミコ(仮名)、アメリカに来る」という設定の下、彼女が日々直面する法律問題をご紹介させていただいています。前回と前々回は、「ハミコ、永い眠りにつく。」ということで生涯を閉じる設定にしましたが、今回からは、年齢・時系列等順不同で法律問題を紹介します。
さて今回は、あまり直面したくない問題ですが、刑事事件沙汰になってしまったときの流れについて整理したいと思います。
ベイエリアの起業家が集まる飲み会で飲み過ぎたハミコは、車で帰る途中で警察に呼び止められ、逮捕されました。「警察に呼び止められる」と言うと簡単に聞こえますが、もうこの時点で危険信号です。日本では、花見シーズンなど、飲酒運転が多くなる時期には無差別かつ事前告知なしの飲酒検問が行われますが、カリフォルニアでそのような飲酒検問が行われるのは稀で、原則として事前に場所と時間の告知がなされるのが一般的です。そのため、カリフォルニアで警察が車を呼び止めるのは、車の外から見て犯罪の嫌疑が高い場合に限られます。つまり、警察に呼び止められた時点で、すでに何かしら交通違反を犯している可能性が高いのです。
また、日本で警察に呼び止められる際は、パトカーが後ろに付いた後、サイレンを鳴らされたり、拡声器等で「前の車両、止まりなさい」などと声を掛けられることが多いですが、カリフォルニアでは、パトカーが後ろに付いた後にライトを点灯させているだけの場合があります。後ろにパトカーが付いてライトを点灯している場合は、必ずスピードを落として道を譲りましょう。これで追い抜いてくれれば一安心です。もし嫌疑を掛けられているときに道を譲らずに走り続けると、それ自体が別の罪(Evading a Peace Officer : 警察官からの逃走)を構成することになり、事態をより悪化させてしまいます。
酒気帯びを疑われた場合は、その場で車を下ろされ、逮捕するのに十分な嫌疑があるかを調べるため、標準化されたField Sobriety Tests(FSTs)と呼ばれるテストや呼気検査を行います。一定の距離を往復させられるなど、普段は行わない動きをさせられる(その理解度が試されている)ので、英語がままならないと大変です。一応、警察の無線で通訳を呼んでくれたり、「日本語が話せるよ」という警察官がいたりしますが、いずれも質はマチマチで、正確な通訳としては信用できません。
上記のテストは任意捜査なので断ることもできますが、断ることでさらに嫌疑を深め、逮捕するのに十分な嫌疑を与えてしまうことになりかねませんし、裁判で有罪になる際には悪い情状として使われ得るので、安易に拒否することは避けましょう。
逮捕されると、ジェイル(日本でいう留置場や拘置所)に移動させられ、正確な血中アルコール濃度を測るための血液検査が行われます。この時点で、逮捕から2~3時間は経過しています(飲酒を終えてからはさらに時間が経過しているはずです)ので、この検査で0・08%以上の濃度が出た場合には、飲酒の事実を否定することは非常に難しくなります。
日本では、逮捕されると、逮捕72時間に加え、10日の勾留が自動的に付いてくると言っても過言ではなく、計13日(延長されると10日が追加されて計23日)の期間は社会と断絶されてしまいます。これには、自白偏重主義の日本らしい捜査手法が影響しており、捜査機関はこの間に何とか被疑者本人の自白を得ようと躍起になります。
一方、カリフォルニアをはじめアメリカでは、弁護士の同席を認めずに得た自白は、任意になされたものではないとみなされ、裁判で証拠能力がないものと取り扱われています。そのため、逮捕・勾留の期間に自白を取るような捜査は原則として行われておらず、逮捕されてもすぐに保釈申請が可能とされています。
日本では、起訴前の保釈がそもそも認められていないので、運用が大きく異なっています。アメリカでのこのような運用を決定づけた最高裁判例は1960年台に出されたもので、アメリカの運用の方が近代的で被疑者の人権を保護していると思いますが、日本はそれから60年以上が経過した今でもなお自白偏重主義を貫いています。
次回は、起訴された後の刑事手続きについて追っていきましょう。

戸木 亮輔(とぎ・りょうすけ)弁護士
日本(第一東京弁護士会)、カリフォルニア州、ニューヨーク州弁護士。東京都内で弁護士として約8年間法律事務所に勤務した後、ニューヨーク州のコーネル大学ロースクールに留学。サンフランシスコで勤務弁護士の経験を経て、2024年1月よりKaname Partners US, P.C.を設立、開業。