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あなたの「今」が輝くために−其の百五十五

2025.10.01

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「友人の死」

 先日、近所に住む友人が亡くなりました。私より20歳近く若く、いつも和服を着ていて、道で私の姿を見かけると「英月さーん!」と裾が乱れるのも気にせず、草履の音をパタパタと響かせて走ってきてくれた。屈託のない笑顔と、少しハスキーな声が思い出されます。一人娘として家業を継いだ彼女に自分自身を重ねていたのかもしれません。一生懸命な姿を見ていると自然と応援したい気持ちになり、微力ながらも彼女のお店が扱う京都の伝統産業の品を紹介したり、また自分のためにも求めたりしていました。その彼女が突然亡くなったのです。

 共通の友人から、亡くなったとの連絡があった時、あまりの唐突さに感情が追いつきませんでした。お悔みに伺い、布団に横たわった姿と対面してようやく、彼女の死を実感させられました。それは一緒にお悔みに伺った方(仮にAさんとします)も同じようで、彼女の姿を見てさめざめと泣いておられました。そんなAさんの泣き声を背にお経さんをお勤めしていると、生前、大行寺のイベントで食い入るように法話を聞き、そして涙を流されていたことなどが思い出されました。明るく振る舞っていたけれど、大変なことも多かったのかも知れません。お勤めが終わり、改めて彼女の顔を見ると「よく頑張ったね」との言葉がぽろっと出てしまいました。彼女は彼女の人生を生き切ったという圧倒的な事実が、「よく頑張った、よく生き切った」との言葉となったのです。亡くなったことはさみしいですが、彼女は彼女のいのちを生き切り、そして全うした。その事実は尊く、素晴らしいことです。

 その後しばらくネット上では、彼女の話題で持ち切りでした。そんな時、Aさんからメールがきました。「ネットを開いても不意に彼女の記事が出てきてしんどい気持ちになっていましたが、英月さんの『生き切った!』『人生を全うした!』という言葉で持ち堪えています。彼女は人生を全うしたんだと思うと、いろんな感情を前向きに受け入れられました」。そうなんですね。正直なところ私自身もネットを開けば目に入る記事に心が波立ち、沈んだ気持ちになることもありました。けれども「彼女は彼女の人生を全うした」という事実に立つと、その波は自然と消えていったのです。



写真:Noriko Shiota Slusser

英月(えいげつ) 真宗佛光寺派長谷山北之院大行寺住職。江戸時代から続く寺の長女として、京都に生まれる。同業者(僧侶)と見合いすること、35回。ストレスで一時的に聴力を失う。このままではイカン! と渡米。北米唯一の日本語ラジオ「サンフランシスコラジオ毎日」でパーソナリティーを勤める他、テレビ、ラジオCMに出演。帰国後、大行寺で始めた「写経の会」「法話会」に多くの参拝者が集まる。講演会、テレビ出演、執筆など活動は多岐にわたる。最新著書は『二河白道ものがたり いのちに目覚める』(春秋社) 。

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