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総領事だより

2025.02.05

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公邸での接宴(3)御茶一服さし上げたく…

「御茶一服さし上げたく…」。公邸に来られるお客様とは一期一会。今回は食後に御茶を点てて差し上げる話です。  

当地では最近Matchaが大人気ですが、亭主が心を込めてお抹茶を点て、客をもてなす茶道は茶の道、求道的な日本の精神文化の結晶であり、Way of Teaと訳すべき所以です。なので「抹茶はMatchaラテとは全く違います!」と申し上げるとまず笑いが。そして洋館の公邸の片隅にしつらえた「茶室」に入ると、そこは俗世から隔絶した「清」の世界。ほのかな明かりの下、焚かれたお香が漂う「寂」なる世界にはお客様一同真剣な眼差しに。会する一同とは「一期一会」。この場所で共に過ごす時間と空間は今日限りのこと。千利休の時代に明日をも知れぬ武士達が、ひと時刀を置いて室に会した話をして、今日という日にこの茶室に来ていただきご一緒できることの「有り難き」をお伝えしています。

また、茶室は客同士、そして客と亭主が相互に「敬」の精神で思いやり、一座を作り上げていく一座建立を実践する場です。御茶が供されたら先ず「Before you(お先に)」「After you(お相伴致します)」と客同士互いに声を掛け合ってくださいと申し上げると、慣れぬこと目を合わせるのもぎこちなく、くすくす笑いを漏らしながらも新鮮な体験を楽しんでくれます。最後にお客様はお茶碗を手に取り(時計回りに)2回しして飲みますが、私から「2回回すというのは目安です。サムライが厳密にやっていたわけではないでしょうが、その心は亭主に敬意を払い正面を避けて飲むということなので、大きく2回回して正面が戻ってこないように!」と言うと、一座ドッと笑いがおきます。こうして、お客様がお帰りになる頃には一座に「和」が生まれます。  

戦後に「一碗からピースフルネスを」という理念で世界を駆け回り茶道を広めた裏千家第15代家元の鵬雲斎大宗匠は、戦時中特攻隊に所属し出撃前の航空服姿の仲間に御茶を一服点てていました。今年は戦後80年、かつて戦火を交えた日米はいまや同盟国となりました。私は現代の外交官として、今の日本、そして日米関係そのものが先人の努力と犠牲の上にあると常に省みるようにしています。公邸の茶室の窓からは、戦争中に米兵が太平洋戦線へ出征したサンフランシスコ湾が眼下に広がります。

人生がそうであるように、国家と国家の関係もまた幾重にも折り重なった物語であり、その上に今があるという「有り難き」をお客様とも共有できたらと思い、鵬雲斎大宗匠の話を紹介しています。

在サンフランシスコ日本国総領事 大隅 洋(おおすみ・よう)
1966年生まれ。東京大学経済学部卒業後外務省入省。経済安全保障課課長、在英日本大使館公使、在イスラエル日本大使館次席公使などを歴任。COVID19期間中は東京にて大臣官房審議官等を務める。2023年9月、在サンフランシスコ日本国総領事として着任。茶道を嗜み、旅行、読書、マリンスポーツを愛好。著者に「日本人のためのイスラエル入門」(筑摩書房)。


領事館のホームページでは、
総領事の活動報告 「総領事便り」を掲載しています。
コチラよりぜひご覧ください。

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