APECリーダーズウィークを振り返って
11月11日から17日にかけて、サンフランシスコ市内で「全ての人々にとって強靱で持続可能な未来を創造(Creating a Resilient and Sustainable Future for All)」をテーマにAPEC(アジア太平洋経済協力)のリーダーズウィークが開催されました。APECは21の国と地域(エコノミー)が参加する経済協力の枠組みですが、本稿では、この期間に開催された関連イベントも含め、特に日本とのかかわりを中心に振り返ります。
APECの閣僚会議が同月14日からモスコーンセンターで開催され、日本からは上川外務大臣と西村経産大臣が参加し、「多角的貿易体制の支持」や「持続可能で包摂的な貿易の促進」といったテーマを中心に議論が行われました。その後、16日と17日の両日に、バイデン大統領や岸田総理大臣、習国家主席を含む首脳レベルでの議論が行われ、終了後には議論の総括として首脳宣言が発出されました。
このAPEC開催に先立ち、同月13日からサンフランシスコ市内でインド太平洋経済枠組み(IPEF)関連会合が行われました。IPEFは、昨年5月にバイデン大統領の東京訪問時に立ち上げが発表された米国主導の新たな経済圏構想です。IPEFの参加パートナー14か国をAPECの参加エコノミーと比べると、中国、ロシアなどが含まれない一方、インドが含まれるなどの違いがあります。今回の会合では、クリーン経済と公正な経済の両分野で実質妥結に至り、貿易分野については包摂性や貿易円滑化に係る内容を含め、実質的な進捗が図られています。
また、米国は既にTPPから離脱していますが、議長国のニュージーランドの主催により、サンフランシスコ市内にてCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)の閣僚会合が開催されました。協定の高いスタンダードを満たす用意があり、貿易に関するコミットメントを遵守する行動を示してきたエコノミーによる加入要請に対してCPTPPがオープンであることなどを内容とする共同声明が発出されています。
こうした閣僚・首脳レベルの会合に加え、様々な取り組みがされています。
同月12日には、パロアルト市に日本政府が新たに設置したスタートアップ支援拠点「ジャパン・イノベーションキャンパス(Japan Innovation Campus)」のオープニングセレモニーが開催されました。この拠点は、海外展開を目指す日本のスタートアップの米国での資金調達や事業展開の支援や、日本企業と米国のスタートアップ・VCとの連携の支援を目的に、シリコンバレーにおける産学官との連携の拠点となることを目指すもので、セレモニーには西村大臣のほか、パロアルト市長やルース元駐日米国大使をはじめ、現地のVCやスタートアップ、大学関係者など、約70名が参加しました。
13日には、上川大臣が現地の日系米国人と懇談を行い、日系米国人が日本の文化や価値観を長年つないできたことを賞賛するとともに、各参加者一人一人と言葉を交わし、各人のこれまでの貢献に感謝の意を伝えました。
また同日、AIや半導体分野のトップ企業と西村大臣の意見交換会が開催されました。AMD、アップル、マイクロソフト、エヌビディア、ラピダス、スーパーマイクロ、テンストレント、ウエスタンデジタルのCEOらが出席し、AIや次世代半導体の分野での日米連携プロジェクトについて話し合われ、西村大臣からは、各社の提案への協力・支援の検討と、今後の日米連携のプロジェクトへのサポートが表明されました。
15日には、西村大臣がカリフォルニア大学バークレー校で講演を行いました。「変革」をキーワードに、日本のスタートアップが持つポテンシャルに触れるとともに、日本の社会・産業構造の変革と日米連携の可能性について述べ、多くの方に日本を訪れてほしいと呼びかけました。また、講演の最後には、同校のスタートアップ支援機関であるBerkeley SkyDeckとジェトロの間で、協力強化に関する覚書が締結されました。
17日には、岸田総理がスタンフォード大学の日本からの留学生と懇談を行った後、日韓スタートアップ企業関係者との車座での対話を韓国のユン大統領とともに行いました。更に、日韓首脳による討論会に出席し、先端技術やイノベーションについての意見が交わされました。
ジェトロとしては、APEC期間中、シーフードのプロモーションにも取り組みました。APEC CEO サミットの展示会で、日本産ホタテの試食と日本酒の試飲ができるイベントを開くとともに、サンフランシスコ市内で当地のシェフや食品流通事業者を招いた日本産水産物のPRイベントを開催し、その品質の高さと併せ、持続可能性を重視した漁獲生産に取り組んでいることを、現地に駆け付けた岸田総理からもアピールしました。
こうした各種の取り組みにご協力いただいた皆様に感謝を申し上げるとともに、APEC期間中に示された方向性が実現に向かっていくことを願っています。
安藤 元太(あんどう げんた)
JETROサンフランシスコ事務所に2023年7月に次長として着任し、AI分野などの産業調査やスタートアップ支援の業務を行う。当地への赴任以前は、経済産業省において、コーポレートガバナンス改革、M&Aに関するガイドライン策定や税制改正、電力システム改革等に携わる。