アグテック展示会FIRA USA 2025と
カリフォルニア・アグテック・アライアンス
2025年10月21日から23日にかけて、カリフォルニア州サクラメント近郊のウッドランドにて、農業用ロボティクスと自律農業ソリューションの展示会「FIRA USA」が開催された。屋外の実演中心というユニークな形式をとる本イベントは今年で4回目を迎え、農機具メーカー、スタートアップ、農業生産者、研究者、支援団体など多様な関係者が集結。農業技術の未来を体感する場として、多くの注目を集めた。
ジョン・ディアやニューホランドなどの大手農機具メーカーに加え、スタートアップやパートナー企業を含む65社以上が出展。実際の農園を模したデモ会場では、各社が自動運転トラクターや収穫ロボットなどの実機デモを披露し、来場者の関心を集めた。Bonsaiというスタートアップは、小規模農園向けの自律走行ロボットを開発し、現場での操作性と汎用性をアピール。ジョン・ディアは2025年のCESで発表した最新モデルを実演し、技術力とブランド力を印象づけた。
さらに、農業バイオテクノロジー向けの生成AIプラットフォームを開発するAiNovo Biotechや、日本の明治製菓が出資する代替チョコレート企業California Cultureなど、全米から選ばれた4社がピッチイベントに登壇。大学発技術を表彰するアワードなどもあり、若手研究者や学生の参加も含めて、展示会は技術と人材の交流拠点としての役割を果たしていた。ブドウの葉から病気診断をする機械を発表したスタートアップの1社は、昨年創業し、すでにベイエリア近郊で3社とPoCを実施しており、新たな顧客発掘のために出展したと語った。
今回のFIRAで特に注目したのは、カリフォルニア州による新たな農業技術推進策「カリフォルニア・アグテック・アライアンス」の発表である。これは、農業技術を研究室から現場へと橋渡しするための1500万ドル規模のイニシアチブであり、カリフォルニア大学農業・天然資源局(UC ANR)、州食品農業局(CDFA)、州知事経済開発局(GO-Biz)などが共同で推進する。
アライアンスは、州内9つの地域イノベーションハブを統括し、左記の3つの柱を中心に展開される。
●技術導入の加速 AI、ロボティクス、センシング技術などを農業現場に適用するための実証支援と導入補助
●人材育成 次世代の農業従事者やアグテック人材の育成を目的とした教育プログラムやインターンシップの提供
●民間投資の促進 スタートアップや中小企業への投資誘導、VCとの連携、州内外の企業誘致
カリフォルニア州食品農業局のカレン・ロス長官は、「州の経済を牽引する農業分野において、気候変動、水不足、人材不足といった構造的課題に対応するには、イノベーションが不可欠。アライアンスによって、中小規模の事業者も生産性と持続可能性を両立できるツールやパートナーにアクセスできるようになる」と語った。
この取り組みは、単なる技術導入支援にとどまらず、農業の社会的・経済的基盤を再構築する制度的な枠組みとして位置づけられている。特に、州政府が大学・民間・地域コミュニティを横断的に結びつけることで、アグテックの「実装力」を高めようとしている点が特徴的だ。
また、ウエスタングロワーは、従来のVC主導型のスタートアップ支援とは異なり、農家自身の資本や地域連携を重視する「非VC型モデル」の可能性にも言及した。「昨今停滞しているVCによるアグテックへの投資に加えて、新たな解決策として、農家同士の協力や現場主導の資本形成が鍵になる。アライアンスはそのような多様な資金モデルにも対応できる柔軟性を持っている」と述べた。
今後、アライアンスがどのように地域の農業現場に浸透し、スタートアップや既存企業との連携を深めていくかは、カリフォルニア州の農業政策の成否を左右する重要な試金石となるだろう。
こうした現場主導の技術実装と制度的支援が連動する動きは、日本にとっても大きな示唆を与える。日本でも、スマート農業技術活用促進法が施行され、全国で実証展開され始めたところだ。農業や食品分野は、収益性だけでは測れない社会的価値を持つ領域であり、人材不足や高齢化からイノベーションの恩恵を最も必要としている分野の一つでもある。にもかかわらず、日本国内だけではマーケット規模に限界があり、グローバル展開を前提とした支援設計が不可欠だと感じる。特に、収益性の高くない産業に挑む企業に対しては、短期的な成果だけでなく、技術力と志を兼ね備えたプレイヤーが長期的に取り組めるような支援の枠組みが求められる。現場と制度の間をつなぐ仕組みづくりに、実践的な視点から関わっていける余地があるとすれば、それは非常に意義のある挑戦になるはずだ。
芦崎 暢(あしざき・とおる)
民間企業にて、グループ企業の経営支援やM&Aなどを担当後、海外向け食品販売事業の立ち上げのため、香港駐在。2018年ジェトロ入構後、本部(東京)にて流通・EC連携を通じた輸出支援、Amazonジャパンストア事業の立ち上げ。名古屋事務所で県内製造業と海外スタートアップの協業連携、中堅中小企業の輸出促進全般を担当。2023年8月から日本企業の輸出促進事業と日本向けのビジネス情報調査と情報発信を担当。
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