支援対象が広がりつつあるジェトロのプログラム

日系スタートアップを支援するジェトロのサービスとして、現地専門家によるメンタリング、法務・税務相談、コーワーキングスペースの無料提供（最大3カ月）、各種アクセラレーションプログラム（分野別）をここ数年で増やしてきたところである。 　

一方、ジェトロの役割の幅が広がっており、近年「日本のスタートアップエコシステムの形成及びその成長への貢献」についても求められるようになった。そのため、2023年度より、“日系スタートアップ”の米国・海外進出支援だけでなく、将来の日本を担う“学生・研究者”や資金提供側である“ベンチャーキャピタル”向けの教育プログラムをスタートさせた。今回はそのうち、主なものを紹介したい。

 ①ベンチャーキャピタル（VC）向け教育プログラム【初】 　

2024年2月から3月にかけて、ジェトロは500 Global（シリコンバレーに本拠を置く運用資産24億ドルのマルチステージ・ベンチャー・キャピタル）及び東京都と共同で、日本のVCがVC投資家としてスキルアップするための教育プログラムを初めて実施した。約15時間のオンライン・コースワーク、東京イノベーションベース（TIB）での2日間の対面式ワークショップ、および米国を拠点とするトップVCによるオンライン・セッションが行われた。参加者はベンチャー投資に対するグローバルな見解や手法に対する理解を深め、世界中のVCとのネットワークを広める機会を得ることができた。非常に好評だったことから、今年度も実施を予定している。

 ②試作品（プロトタイプ）のある学生向けプログラム【初】 　

2024年8月から9月にかけて、ジェトロはスタンフォード大学d.school（デザイン思考を学び、創造力を発揮することで様々な問題解決につなげられる学習体験を提供するスタンフォード大学の機関、正式名称はHasso Plattner Institute of Design）と連携し、試作品（プロトタイプ）を有する20名の学生向けプログラムを初めて実施した。デザイン思考とは、商品やサービスを使うユーザーの視点からビジネス上の課題を見つけ、解決策を考える手法のことであるが、イノベーション促進の考え方として、近年日本でも注目されており、学生たちは実際に「デザイン思考」スキルを習得しながら自身の事業案を修正、改善した。

 ③研究者や大学院生等を対象にした日本でのブートキャンプ【初】 　

2024年2月から3月にかけて、研究を通じて得たビジネスアイディアをグローバルに事業化し、独立・起業を目指す方（学部生／大学院生／研究機関や企業の研究者含む・領域不問）を対象に日本においてブートキャンプを実施した。米国大学UCバークレー発のアクセラレーターであるバークレー・スカイデックのアドバイザーが資金調達、マーケティングやピッチ資料の作成方法など、米国・シリコンバレーでビジネスを進めるにあたっての基本事項についてのレクチャーを行った。開催場所は東京（参加者約50名）と大阪（参加者約30名）が数日間のプログラムに参加し、ビジネスプランについてアドバイザーから直接フィードバックを受ける面談も行った。

 ④U25起業家コース【初】 　

25歳以下の学生、および若手起業家20名を対象に、UCバークレーと連携し、グローバルスケールを目指す若手起業家に必要なスキルとネットワーク機会を提供した。オンラインでのレクチャー、現地における3週間のプログラム、さらに渡航後のオンラインでのメンタリングなど、一度参加することでシリコンバレーのエコシステムを理解できる内容とした。現地プログラム期間中、積極的に潜在顧客やVCにアプローチする参加者もいた。 　

このように、従来の企業・スタートアップ向けの支援プログラムだけではなく、日本全体のレベルアップを図るため、ジェトロの支援対象者の幅が広がりつつある。地域起業家や女性起業家を対象とした米国進出プログラム、米国で販売する準備が整っているスタートアップ向けのプログラムなども実施予定であり、それぞれの状況に応じた支援メニューを引き続き充実させていきたい。

吉田 健（よしだ けん）
2000年ジェトロ入構後、機械、食品、伝統産品等の輸出支援、中国・アセアンへ日用品・生活雑貨の輸出支援などに従事。また、外務省への出向や外食、小売、理美容、教育等の海外への出店支援など、幅広い分野での業務に携わる。ジェトロ佐賀貿易情報センター所長を経て、2021年10月よりジェトロ・サンフランシスコで勤務。