人工知能(AI)を活用した山火事の防災
今年、カナダでは6月に史上最悪の山火事(13州と準州で6551件発生、約184万平方キロメートルの森林が焼失※1)が発生し、8月にはマウイ島で甚大な被害を引き起こした山火事が発生と、大変な年となっています。一方、カリフォルニアでは今のところ、過去5年間の平均である同時期の焼却面積を下回り、山火事が少ない年となっているようですが、2022年の山火事は約96件、焼失面積は170万ヘクタール以上と、大変な時を経験しました。
このように、年々多くの山火事が発生していますが、その原因は様々であり、一説には、温暖化、気候変動の影響とも言われ、ますますその防災への取り組みの必要性は高まるばかりです。今回は、その被害を最小限に抑える取り組みについて見ていきたいと思います。
人工知脳を活用して山火事を
検出する防災プログラム
いかに山火事を早期に発見して被害を最小限に抑えるか、また未然に防ぐことができるか、というのは大変緊急な課題です。今年7月に、カリフォルニア州林業および消防防災局(Cal Fire)は、カリフォルニア大学サンディエゴ校との協力により、AIを活用して山火事を検出する新しいプログラム「Alert California AIプログラム※2」を開発し、活動を開始したと発表しました。
Alert California AIプログラム
このプログラムは、飛行機やドローンからLiDAR※2スキャンを利用して、スキャン対象の森などの三次元情報を収集します。そしてその情報は、木の種類に関するデータと組み合わされ、カリフォルニアの森林の状態をより正確に把握することが可能なようです。また、1050台以上のカメラからの映像を24時間稼働し、常に分析して異常や潜在的な火災を特定し、検出します。
同プログラムの具体的な内容は、
①気象データと気象モデル化気温、湿度、風速・風向、降水量などの気象データを収集し、気象モデルを使用して山火事が発生しやすい条件を特定し、山火事の発生リスクを予測。
②衛星画像とAIを活用衛星画像から異常なパターンを自動的に検出。山火事の初期兆候を検出。
③センサー設置森林に設置されたセンサーからのデータ分析。
④山火事のモデリングとシミュレーション
過去の山火事のデータと気象データを組み合わせた予測モデルとシミュレーションにより、避難計画を策定。
⑤森林の状態、及び地滑りの分析
植生の成長/除去または地形の変化を定量化し、森林の動態をより適切に監視し、侵食や次のような壊滅的な現象に関連する森林管理のリスクを評価および軽減。
⑥ 予防教育プログラム
などです
このプログラムをスタートして、早3カ月が経過しましたが、どのような効果があったのでしょうか。Alertによると7月に開始されて以来、このプログラムはすでに少なくとも3つの山火事の被害を最小限に防いだとのことです。
7月12日
サンディエゴ郡のボルカノ山で山火事が発生。同プログラムのカメラとセンサーが火災を早期に検知し、消防隊に通報。
7月17日
サンタバーバラ郡のロス・プリエトスで山火事が発生。同プログラムのカメラが火災をリアルタイムで映し出し消防隊と状況を共有、最適な対応策が実施できた。
7月22日
サンディエゴ郡のパロマー山で山火事が発生。同プログラムのセンサーが火災を検知し、消防隊に通報。
企業の取り組み
山火事の予測や被害拡大のモニタリングに関する技術を提供している企業もあります。例えば、
・OroraTech 赤外線データを利用し、森林火災の早期検知とモニタリングを提供。
・RedZone AIを使った火災分析で、米国内の火災を検出し、効果的に対応するために必要なツールを提供。
などです。
いかがでしたか。「Alert California」プログラムは始まったばかりですが、大変興味深い取り組みです。このウェブサイト※4では、カリフォルニアに設置されている地点のライブカメラの映像も見ることができますし、実際に火災が発生した、過去の映像も公開しています。ご興味のある方は是非、見てください。
今後もこの山火事防災プロジェクト「Alert California」の効果に期待して、見ていきたいと思っています。
【注釈】
※1
en.wikipedia.org/wiki/2023_Canadian_wildfires
※2
alertcalifornia.org/technology/
※3 「Light Detection And Ranging」の略。レーザー光を照射して、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを計測する技術。
※4
cameras.alertcalifornia.org/?pos=37.2382_-119.0000_6
冨田 裕司(とみた ひろし)
米国シリコンバレーに駐在18年にわたり、日本企業のR&D会社の代表を務める。2017年5月日本貿易機構(JETRO)と国立情報学研究所(NII)の共同事務所・シリコンバレーオフィス設立に伴い、NIIオフィスRepresentative、JETRO/Directorに就任。熊本県出身。