バイデン政権の水素戦略と具体的な計画
スタンフォード大学で水素イベント
3月26日より2日間、スタンフォード大学のカーディナルホールで「Hydrogen Market: The Dynamics of Supply and Demand」「The Future of Hydrogen in California」と題したカンファレンスが開催されました。同大学のモデレーターが議事を進める中、政府関係者や水素プロジェクトに参画する企業が登壇し、水素利活用の現状について活発な意見交換がなされました。日本関係では、日本水素フォーラム、米国三菱重工業、JERAがパネリストとして登壇しました。
米国での水素普及に向けて
燃焼時に二酸化炭素を排出しない水素は、脱炭素社会の実現に向け、有望なクリーン燃料として期待されています。バイデン政権は2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させて、排出量を実質ゼロ(NET ZERO)にすることを目指しています。それに向けて、米エネルギー省(DOE)は「国家クリーン水素戦略とロードマップ(National Clean Hydrogen Strategy and Roadmap)」の中で、クリーン水素(※)の年間生産を2030年までに1000トン、2040年までに2000トン、2050年までに5000トンに拡大する目標を掲げています。生産された水素は産業用途(化学、製鉄、工業熱)、輸送(中型・大型車、海運、航空、鉄道)、電力セクター(水素燃焼発電、送電網サービス、バックアップ電源、長期エネルギー貯蔵)など、幅広い分野での利用が期待されています。一方、製造コストが普及への課題となっています。2021年時点で再生可能エネルギーから生産できる水素は1キロ当たり5ドル。これを10年後の2031年までに1キロ1ドルで生産することを目指しています(Hydrogen Shot)。
各地域での計画
バイデン政権は2023年10月にインフラ投資雇用法(IIJA)に基づき、総額70億ドルの資金提供を受ける7つの水素ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs)を選定しました(図1)。本プロジェクトを通して、官民合わせて総額500憶ドル近い投資が期待されています。それにより、合計で年間300万トン以上のクリーン水素を生産し、2030年の米国のクリーン水素生産目標の約3分の1を達成し、年間2500万トンの二酸化炭素排出が削減されることを目指しています。そのうち、西海岸では2つのプロジェクトが選定されています。カリフォルニア水素ハブ(ARCHES:Alliance for Renewable Clean Hydrogen Energy System)では、再生可能エネルギーとバイオマスのみを利用し水素を生産(年間約200万トン)。主な温室効果ガスの排出源である公共交通機関、大型トラック輸送、港湾業務で水素を活用した脱炭素化を目指します(資金提供:最大12億ドル)。パシフィック・ノースウェスト水素ハブ(PNWH2:ワシントン州、オレゴン州、モンタナ州)では、再生可能資源を活用した電力を用いた水素を生産(年間約100万トン)。州間高速道路に沿って8つの水素製造拠点が設けられる予定。大型トラック輸送における水素燃料電池車の普及を計画しています(資金提供:最大10億ドル)。これらの取り組みを通して西海岸のクリーンな貨物ネットワークの接続と拡大が期待されています。
日本水素フォーラム
2021年12月、米国で水素ビジネスを行っている日系企業により「日本水素フォーラム」が設立されました。同フォーラムはジェトロ・ロサンゼルスが事務局を務め、米国の連邦政府、州、そして自治体の各政府機関の脱炭素化の支援を目的としています。15社で発足したフォーラムですが、2024年には30社が参加しています(図2)。水素関連の情報を共有すべく活動していますので、ご関心のある企業は最寄りのジェトロまでお問い合わせください。
※クリーン水素:再生可能エネルギーを用いて生産した「グリーン水素」、および化石燃料を使った過程で排出された温室効果ガスを回収して地中に埋める(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)などの排出を抑える工夫をした「ブルー水素」を指す。
【図1】
【図2】
小林 努(こばやし・つとむ)
日本貿易振興会入会後、松江、シンガポール、東京本部などで中堅・中小企業の海外展開を支援。2023年8月よりサンフランシスコ着任。米国スタートアップの日本進出、米国企業と日本企業の協業・連携支援を担当。