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あなたの「今」が輝くために−其の百六十二

2026.06.03

配信

「執着」

 先月、先々月と父の話しにお付き合いくださり、ありがとうございました。コラムを読んだ友人たちから、お悔みのメールやLINEをたくさんいただきました。父を亡くしたことは悲しくさびしいことですが、こころを寄せてくださる方たちがいてくれることを知らされるのは、うれしいことです。と同時に、帰国して約16年になりますが、ベイエリアの方々とご縁が続いていることがしみじみとうれしいです。そもそも渡米したのは家出だったのにと思うと、人生、何が起こるかわかりませんね。

 先日、「働く女性の生きやすさにコミットする」というキャッチコピーのCHANTO WEBさんのインタビューを受けました。家出騒動の顛末とその後のことが記事としてウェブサイトに掲載されていますので、よければお読みください。

 さて、その取材のときに、アメリカ時代の写真を何枚か用意してほしいと頼まれました。久しぶりに見る懐かしい写真に、こんなことがあったなぁ、この写真に写っている人たちはどうしているかなぁと、思いを馳せていました。その中に1枚、日本を出発する時に空港で撮った写真がありました。空港には一人で行ったので、誰かに頼んで撮ってもらったものでしょう。背後にはフライトインフォメーションボードがあり、目的地のサンフランシスコの文字が見えます。機内持ち込み用の小型のスーツケースと小さなショルダーバックを手にし、その他には預けたスーツケース、荷物はそれだけだったのに! 10年近いアメリカ生活の後、日本に帰ってきたときの荷物といったら!

 今でも覚えています。サンフランシスコのアパートメントの小さな部屋で荷造りをしていたときのことを。大量の荷物に、いっその事、何も持たずに帰ろうか? と思ったことを。しかしすぐに思い直して、段ボール箱に服や鞄、靴に雑貨と詰めていきました。私は執着を詰めているのだと思いました。それから約16年、帰国以来、空けていない箱がまだあります。だったら捨ててもいいのでは? と思うのですが、それは嫌なのです。目に見える物に、そして目に見えない思い出に、サンフランシスコでの時間に、執着しているのです。ふと思います、父は今、その執着から解放されているのかも知れないと。そして私は、あらゆることに執着しているのだと。



写真:Noriko Shiota Slusser

英月(えいげつ) 真宗佛光寺派長谷山北之院大行寺住職。江戸時代から続く寺の長女として、京都に生まれる。同業者(僧侶)と見合いすること、35回。ストレスで一時的に聴力を失う。このままではイカン! と渡米。北米唯一の日本語ラジオ「サンフランシスコラジオ毎日」でパーソナリティーを勤める他、テレビ、ラジオCMに出演。帰国後、大行寺で始めた「写経の会」「法話会」に多くの参拝者が集まる。講演会、テレビ出演、執筆など活動は多岐にわたる。最新著書は『二河白道ものがたり いのちに目覚める』(春秋社) 。

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