Vol.16 : ハミコ、出廷を命じられる!の巻
皆さまこんにちは。弁護士の戸木です。「ハミコ(仮名)、アメリカに来る」という設定の下、彼女が日々直面する法律問題をご紹介させていただいています。前回に引き続き、あまり直面したくない問題、刑事事件沙汰を起こしてしまったときの流れについて整理したいと思います。
飲酒運転で逮捕されて翌日に保釈されたハミコの手には、見慣れない2枚の紙がありました。一つは、「Notice to Appear」と題する黄色の紙、もう一つは右上に「DS 367」と書かれたピンク色の紙です。
黄色い紙には、名前や生年月日のほか、「Code: VC」「Section: 23152(B)」「Description: DUI WITH ALCOHOL 0 08 PERCENT OR MORE」等と書かれていました。これは、カリフォルニア州道路交通法(Vehicle Code)第23152条B項違反であること、0・08%以上の血中アルコール濃度の影響下で自動車を運転したことを示しています。ちなみに「DUI」はDriving under the Influenceの略で、薬物の影響下で運転をした場合も含んでいる罪です。
このNotice to Appearは、裁判所への出廷を命じる書類です。上記の情報に加え、出廷日、出廷時間、出廷場所(裁判所の住所)等が記載されています。一般的な交通違反の場合には、罪を争わずに罰金を支払うことで出廷の必要性はなくなりますが、飲酒運転の場合にはそうは行きません。ハミコの場合は、逮捕後約2か月後の2025年7月16日の午後1時30分に、Santa Clara County Superior Court – Palo Alto Facilityに出廷するようにと書かれていました(日時は仮定です)。基本的にはこの日時に手続が行われますので、指示されたとおりに裁判所に出廷することになります。
一方、DS-367は、裁判所ではなくDMVに関する書類です。裁判所での手続きとDMVでの手続きが別々に進んでいくので、この点は少し理解しにくいかもしれません。裁判の手続きで無罪を主張していたとしても、DMVの手続きで無罪を主張しない限り、DMVでは飲酒運転があったものとみなされて免許停止等の処分が下されます。無実を主張したい場合には、書類を受け取ってから10日以内に連絡を入れ、Hearing(審問)を設定してもらわなければなりません。
ハミコは、これらの書類が何を意味するのか、また何をすべきか見当がつかなったことから、保釈当日に弁護士に連絡を入れました。Sooner is better、賢明な判断です。日本語での対応を求めようとすると対応可能な弁護士が限られてしまいますが、裁判所所在地ローカルの交通違反専門の弁護士を探すことで出廷費用等が安価に済む場合もありますので、ご自身に合った弁護士を探しましょう。
また、ビザ保有者の場合には、DUIで逮捕されたことをもって自動的にビザが取り消される場合があります。ビザを失っても、滞在資格を失っていなければ強制送還になるわけではありませんが、米国外に出る場合にはビザの再発行が必要ですし、そのために追加の書類を求められる場合がありますので、移民法専門の弁護士にも相談をしましょう。
まず弁護士が対応するのは、DMVへのHearing Requestです。これをしないと、自動的に免許停止処分となり、最低30日は運転をすることが一切禁止されます。30日を経過した後は、所定の運転講習を受け始めた証明書や保険加入の証拠等を提出することで、制限付き運転免許を付与してもらうことができます。DMVのHearingを設定しておくと、暫定的にこの処分を留保にすることができます。
次に対応すべきは、警察署からのPolice Report(捜査報告書)の取得です。この内容を見ることで、逮捕時の状況(警察官がなぜ停止を求めたかの経緯)や、現場での飲酒テストや呼気・血液検査の結果等を正確に知ることができます。逮捕時に酩酊していたハミコは、なぜ自身が呼び止められたのか、逮捕前にどのような受け答えをしたのかの記憶が曖昧でした。Police Reportを読んだところ、赤信号を右折した際、一時停止どころかスピードをほとんど落とさなかったことから、巡回中の警察官が危険な運転と見て呼び止めたことが分かりました。また、その際、窓を開けた車中から相当なお酒の臭いがしたこと、ハミコの目がかなり充血していたこと、呂律が回っていなかったこと、呼気検査で0・12%のアルコールが検出されたことなどが書かれていました。停車させられた経緯も合理的で、飲酒運転の証拠もここまで揃っているのを目の当たりにし、ぐうの音も出ないハミコでした。

戸木 亮輔(とぎ・りょうすけ)弁護士
日本(第一東京弁護士会)、カリフォルニア州、ニューヨーク州弁護士。東京都内で弁護士として約8年間法律事務所に勤務した後、ニューヨーク州のコーネル大学ロースクールに留学。サンフランシスコで勤務弁護士の経験を経て、2024年1月よりKaname Partners US, P.C.を設立、開業。