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2023.04.19

配信

二酸化炭素削減 実証プラント「Mechanical Tree」


今回は、先月の「カリフォルニアx 日本=クリーンテック」でも取り上げられていた、クライメートテックの一つである二酸化炭素削減の実証プラントを、アリゾナ州立大学で見学できる機会がありましたので、その内容とともに紹介してまいります。まずは、その二酸化炭素の排出削減市場に注目して見ていきましょう。

 ①市場動向  
二酸化炭素の回収と蓄積の市場規模は、2020年は19億6000万ドル、2021年に20億1000万ドル、2028年には70億ドルに達するとの予測*1(二酸化炭素の回収と蓄積技術には、二酸化炭素の発生時に吸収・削減する技術や、既に排出された二酸化炭素を回収する技術、捕捉した二酸化炭素を地下深くの貯水槽などに貯蔵するために輸送する技術、貯蔵する施設を含む)。その市場規模は拡大しています。(注1)

 ②温室効果ガス、特に大気中の二酸化炭素濃度削減の対策技術
・エネルギーの使用量を減らす省エネルギー対策。
・脱炭素燃料への転換:石炭よりも石油、石油よりも天然ガスの方が二酸化炭素の排出量が少なくすみます。さらに、太陽光、風力、水力、地熱などの自然エネルギーの活用も。
・化石燃料を燃やした時の排ガスから二酸化炭素を除去し、除去した二酸化炭素を地中や海中に隔離する方法も研究が進められています。

 ③ 二酸化炭素の回収技術  
マイクロソフトが二酸化炭素を除去する技術への投資するなど、注目度の高いこの分野では、分離膜を使った二酸化炭素の回収技術などもありますが、ここでは、近年注目されている、大気中の二酸化炭素を直接分離回収する技術(Direct Air Capture(DAC))に触れてまいります。  

この技術の最大の特徴は、大気中の二酸化炭素を回収することができるという点です。一方、コスト面や大規模な設備が必要であったり、さまざまな立地条件を満たした場所でなければいけないなどの課題もあるようです(将来的には、回収した二酸化炭素に高い付加価値を加えて販売するなどの市場開拓を期待)。日本でも、いくつかの重工業会社が取り組んでいるようですが、実用化という点では海外の企業の方が進んでいるようです。  

その主な企業は、
・スイス クライムワークス(商用化、年間最大4000トンの二酸化炭素抽出) ・カナダ カーボンエンジニアリング(2026年稼働目標)
・アメリカ グローバルサーモスタット(パイロットプラント稼働中) などです。  大学でも研究が進んでいます。一例として、アリゾナ州立大学(ASU)での実証プラント(Mechanical Tree)を紹介します。アリゾナ州立大学は、本物の木と同じように大気中の二酸化炭素を除去する、最初の「機械ツリー」をテンピの大きな道沿いに設置し、実証試験をスタートしました。大きなチューブのような形の機械ツリーは、独自の吸収材で炭素分子を捕らえて二酸化炭素を除去します。この技術は、大きな扇風機で空気を集めるクライムワークス社の方法とは異なり、受動的に、つまり、エネルギーを消費するファンを必要とせず、空気を取り込んで二酸化炭素を吸着するプロセスに導きます。このため、低コストでスケーラブルなソリューションとなり、商業的にも競争力が見込めるということです。 【Mechanical Tree*2】

二酸化炭素ガス除去装置 概要 


大気中の二酸化炭素を除去する最初の「Mechanical Tree」を設置。大きなチューブ型の機械ツリーは、独自の吸収材に炭素分子を捕捉することで二酸化炭素を除去。他の炭素回収技術とは異なり、送風機やファンを使用しません。これにより、比較的安価な施設を提供できるようになります。

大きさと外観 


高さ10 メートルの金属製の柱と、直径約152センチメートルの円盤で構成されます。 【動き】真ん中の金属製の柱が地面から上方に伸びていき、その円盤がばらばらに広がり、空気の流れが円盤の表面と接触し、二酸化炭素を特殊な吸収材によって吸着。円盤はキャニスター内で下降。機械ツリー内で吸着剤から抽出されたガスは、収集、精製、処理され、他の用途に使用されます。円盤はもとの位置に戻り、継続して二酸化炭素を回収します。

【炭素の除去量】この機械ツリー1本を継続的に運用した場合、1日あたり最大90キログラム、年間で最大33トンの炭素を除去すると予想されています。これは、杉などの樹木2340本の木に相当するとの試算もあり、期待が持てます。(杉を80年で伐採するとして、14キログラム/本/年という試算) (注2)   

いかがでしたか。まだ実証プラントの段階ですが、大変興味深い技術です。今後の展開に注目していきたいと思います。

(注1)
www.fortunebusinessinsights.com/industry-reports/carbon-capture-and-sequestration-market-100819
(注2)
news.asu.edu/20220415-solutions-first-mechanicaltree-installed-asu-carbon-collect-tempe

ジェトロ・サンフランシスコ事務所 冨田 裕司(とみた ひろし)
米国シリコンバレーに駐在18年にわたり、日本企業のR&D会社の代表を務める。2017年5月日本貿易機構(JETRO)と国立情報学研究所(NII)の共同事務所・シリコンバレーオフィス設立に伴い、NIIオフィスRepresentative、JETRO/Directorに就任。熊本県出身。

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