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あなたの「今」が輝くために−其の百五十六

2025.11.05

配信

「深い視点」

 お経さんを読んでいると、視点の深さに驚かされることがあります。例えば『涅槃経』で説かれる、アジャセという王子さまの救いです。彼はお釈迦さまの時代に実在し、そそのかされて父である王を殺し、母をも手にかけようとした人です。その後、父を殺したことで地獄に落ちると、恐れ苦しみます。ここでの救いは、地獄に落ちないこと。そこで家臣たちが口々になぐさめますが、アジャセの苦しみは無くなりません。当然です、父王を殺した事実は無くならないからです。

 そこにお釈迦さまの弟子でもあるギバという大臣がやって来て、こう言います。「あんなヒドイことをしたら、寝られないよね」と。本当のことをよく言ったと思いますが、異母兄でもあり、医者でもあったギバの言葉にアジャセは頷きます。「無実の父王を殺したことを思うと、どうして眠ることができようか」と。それを聞いたギバは「善いかな」と喜びます。その理由を、慙愧(ざんぎ)を生じたからだと言います。慙愧とは説明するのが難しい言葉ですが、罪を恥じるという自覚のことです。この後お経さんでは、地獄に落ちてもかまわないと言い切るアジャセへと変えられていく姿が説かれます。

 これが救いになるのか? と考えてしまいますが、転換となったのは慙愧です。地獄に落ちることを恐れるとは、言葉を換えれば、罰せられることを恐れているのです。そこに自分がしたことに対する自覚はなく、ただ悪いことが起こると怯えている。それがギバに事実を言い当てられ、慙愧という自覚を生じたことで、罰せられて当然の自分だと自分自身がハッキリしたのです。慙愧は反省して卑屈になることではなく、それにより自分自身の姿が知らされることです。すると、もう一つハッキリすることがあります。それは、そんな自分を見捨てない仏さまのはたらきがあるということです。自分には関係ないと思っていた仏さまが、自分のためにおられたのだと、そのお言葉に耳を傾けることができ、本当の救いに繋がったのです。

 何か問題が起こった時、ついつい自分にとって得になる解決方法を考えてしまいます。罰とまではいかなくとも、悪いことは避けたいものです。当然のことですが、それが本当の解決になるのでしょうか? そんな視点を知らされた思いです。



写真:Noriko Shiota Slusser

英月(えいげつ) 真宗佛光寺派長谷山北之院大行寺住職。江戸時代から続く寺の長女として、京都に生まれる。同業者(僧侶)と見合いすること、35回。ストレスで一時的に聴力を失う。このままではイカン! と渡米。北米唯一の日本語ラジオ「サンフランシスコラジオ毎日」でパーソナリティーを勤める他、テレビ、ラジオCMに出演。帰国後、大行寺で始めた「写経の会」「法話会」に多くの参拝者が集まる。講演会、テレビ出演、執筆など活動は多岐にわたる。最新著書は『二河白道ものがたり いのちに目覚める』(春秋社) 。

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