乳がんとの向き合い方を考え
自分にとってベストな選択を
BCネットワークは11月4日、乳がん早期発見啓発セミナーを行いました。講師に迎えたのは、ハワイ大学がんセンター長で腫瘍内科部長の上野直人医師と、同センター乳腺外科の山内英子医師。両医師は講演で、検査や治療法が日々変化していく中、患者やその家族、親しい人が病気とどう向き合っていくべきかを話してくれました。
自分らしく生きるための選択
山内 英子(やまうち・ひでこ)医師
ハワイ大学がんセンター教授、乳腺外科医。国立がん研究センター理事。順天堂大学医学部卒業後、聖路加国際病院レジデント、医員を経て渡米しボストン、ワシントンDC、ハワイ、フロリダの研究所に従事。2009年に帰国後、聖路加国際病院で乳腺外科医長、乳腺外科部長、ブレストセンター長、副院長、理事を歴任。2023年9月より現職。
先に登壇した山内医師はまず、データをもとに、乳がんは女性がかかるがんの1位(日本・世界)である一方で、死亡率は1位ではないことを示しました。また、日本を含むアジア諸国では、罹患率が欧米に比べ低いものの年々増加しており、罹患年齢も40代から50代が多く、70代中心の欧米に比べ若い傾向があることなど、私たちを取り巻く乳がんの現状を伝えました。次に、医療の進化でより多くなった治療法の選択について、何がベストであるかは患者の希望、社会的立場、家族の存在によって異なることを複数の事例を挙げて説明。それぞれが抱える悩みに対し、例えば小さい子どものいる人には、専門資格を持ち、子どもの発達やストレス対応をサポートしてくれる「チャイルドライフスぺシャリスト」の存在、バリバリ仕事をこなしたい人には、仕事と治療の両立のために受けられる国からの支援があることなど、さまざまな対策について述べました。
現在は、医師から患者へ一方的に治療法を告げられるというよりも、患者と医師が双方向で意思決定をしていく「Shared decision -making(意思決定共有主義)」という考え方が主流になりつつあると話し、患者が「自分らしく生きる」ことができるよう、治療を選択していくことの大切さを訴えました。山内医師はまた、乳房再建技術や遺伝子要素についても最新の情報を共有。がんと向き合う人たちへ「知識を力にして、前に進んでいってほしい」と激励の言葉を送りました。
個別化治療にこそ「患者力」が必要
上野 直人(うえの・なおと)医師
ハワイ大学がんセンターがんセンター教授、腫瘍内科医、ディレクター。腫瘍分子細胞学博士。ピッツバーグ大学付属病院にて一般内科研修後、米国内科専門医取得。腫瘍内科医としてテキサス大学MDアンダーソンがんセンターで30年にわたる勤務を経て2022年12月より現職。炎症性乳がん、転移性乳がんを専門とする。
次に登壇した上野医師は、「個別化治療」について解説しました。個別化治療は患者の体の反応や本人の意思、ライフスタイルなどの要素をもとに、個々に適した治療法を決めていくものです。ただ、そのためには「バイオマーカー」という患者の遺伝子などを調べる検査が必要ですが、「何でも闇雲に受ければいいわけではない」と上野医師は警告します。必要のない検査を受けて精神的ダメージを受けることもあるのだとか。検査目的を理解することが「その検査をするべきか」の判断基準になるのだそうです。同検査の目的は「病気の診断」、(治療に関わらず)患者自身が持つ治癒力を調べる「予後の予測」、治療の効果をはかる「治療効果の予測」と3つに分かれます。また、がんの遺伝子は治療するたびに変化するため、何度も検査する場合もあるようです。
上野医師は、患者自身が積極的に知識を得て主治医と相談していく「患者力」が、より満足な治療を受けるために大切だと強調しました。そして、患者力を持って治療に臨むための行動アドバイスとして、①リフレーズ(確認)②常に質問する③質問リストを作っておくという、3つのポイントを挙げてくれました。
両医師の講演後は、キャラ弁アーティストの井村紀子氏による乳がん体験談とキャラ弁作りの実演が行われた後、ニジヤマーケットからの寄付商品が当たる恒例のじゃんけん大会も行われ、セミナーは和やかな雰囲気で締めくくられました。