書道は、日本の伝統文化を学べると同時に、集中力も身につくことから、子どもに学ばせたい習い事のひとつ。フォスターシティーとパロアルトで稽古を行う田中有規子先生の書道教室は、子どもから大人まで幅広い世代が通う、ベイエリアでも貴重な日本文化の学び場だ。稽古では、墨をするところから始まり、筆遣いや姿勢、礼儀に至るまで、丁寧な指導が行われている。今回は、2024年夏から教室に通っている小学5年生の紗季子(さきこ)さんと、お母さんにお話を伺った。
日本語が「記号」になりがちな環境で
娘が初めて筆に触れたのは、補習校のお祭りでの書き初め体験でした。そのときに「筆で書くのが楽しい」と感じ、「書道を習いたい」と言うようになりました。アメリカ生まれ・アメリカ育ちの娘は、平日は英語の環境が中心で、日本語を書く機会は週1回の補習校くらいしかありません。日本語の文字を「言葉」というより「記号」に近いものとして捉え、自分の字がきれいかどうかも分からない状態でした。教室探しは、日本で習字を習っていた補習校の友人に相談したことがきっかけでした。評判を聞いて田中先生の教室を知り、体験レッスンに参加。最初に書いた字と、筆遣いを教わったあとの字の違いに驚き、年下の子の美しい字にも刺激を受けたようです。「字が上手になるかもしれない。絶対に習いたい」そう言って、通うことを決めました。
上達が自信になって、生活の中にも溶け込む
他の習い事(学習塾やピアノ)では、疲れて「祝日と重なればいいな」と言うこともありますが、書道だけは「休みたい」と言ったことがありません。友人が帰国して一人になってからも続けているのは、上達している実感があるからだと思います。補習校の提出物に「字がとてもきれい」とコメントをもらうことも増え、字を丁寧に書く習慣が身につきました。時には私に「この字のここは止めるんだよ、はねるんだよ」と教えてくれることもあります。桜祭りなどで作品が展示される際には、「一番下手だったら恥ずかしい」と心配しながらも、「もっと上手に書きたい」という気持ちが強くなっていったようです。会場で自分の作品を見つけると、うれしそうな表情を見せます。多文化の土地柄、筆文字を「かっこいい」と言われることも自信につながっているようです。家の中には娘の作品が貼られ、筆洗いの際に習った字をシンクに書いて、「きれいに書けたから写真に撮って」と記録することもあります。書道は、特別な習い事という枠を超え、日常の中に自然と溶け込んでいます。
字だけでなく、心と生活が整っていく
田中先生はアメリカの先生とは違い、凛とした「日本の先生」という印象で、礼儀や姿勢も大切に指導してくださいます。稽古では挨拶が重んじられ、「よろしくお願いします」で始まり、「ありがとうございました」で終わります。その日本的な指導スタイルをアメリカでも続けてくださることはありがたく、娘にとっても書道の時間は「特別な時間」です。大きな変化は姿勢です。筆の運びには体の整え方が欠かせないと先生が繰り返し伝えてくださるため、家でも姿勢を正す癖がつきました。「目が近いよ」と声をかけると、ヒュッと背筋が伸びます。また、欠席時の振替や延長にも柔軟に対応してくださり、助かっています。そして何より、先生は「字だけ」を見ません。「気持ちが小さくなると字も小さくなる。もっと伸びやかに」と、子ども全体を見て声をかけてくださるのが魅力です。書道を通して、自分と向き合う時間をもらっていると感じています。