【相続】カリフォルニア在住者が
直面する日本での相続手続

日本から渡米された方や、日本に親族がいらっしゃる方は、カリフォルニア州に住んでいても、いずれ日本国内で相続に関わる手続きに巻き込まれる可能性があります。特に、被相続人または相続人が米国市民権を取得していたり、日本国外に長年居住していたりする場合、日本の相続手続きは想像以上に煩雑になることがあります。
①カリフォルニア在住者が日本に財産を残していた場合
カリフォルニア州に在住している方が亡くなった場合、その方の遺産は通常、カリフォルニア州裁判所のプロベート(遺産管理)手続きを通じて処理されることになります。しかし、亡くなった方が日本に銀行口座や証券口座、不動産などを保有していた場合、米国のプロベート手続きで処理できるでしょうか。日本法は、相続に関する法律は「本国法」によると定めています。つまり、日本国籍の方が亡くなった場合、日本法が適用されるということです。たとえカリフォルニア州の裁判所が米国法に基づいて相続手続きを進めたとしても、日本ではそれが認められないのです。
仮に亡くなった方が米国市民権を持っていたとしても、日本には「プロベート」という制度が存在しないことにも注意が必要です。日本法に基づくと、相続が発生した場合は、原則として、相続人間で遺産分割協議(合意できない場合には、家庭裁判所において調停または審判)を行い、その結果に基づいて金融機関や法務局で手続きを進めます。仮に相続人間で合意できない場合、家庭裁判所に調停または審判を申し立てますので、プロベートのような手続きは基本的に想定されていないのです。つまり、金融機関や法務局はプロベートの手続きを正確に理解することができず、日本法に基づいた処理を求めるしかないのです。
では、日本法に基づく相続手続きで煩雑になりがちなポイントを見ておきましょう。まず、遺産分割協議書の作成です。日本では実印での押印と印鑑証明書の添付が求められるのが通例で、これが国外在住者にとっては大きなハードルとなります。代替手段として、総領事館等で「署名証明書(サイン証明)」を取得し、それを添付することができますが、この場合も、全ての相続人が同一の原本に署名または押印しなければならないという実務上のルールが壁になります。持ち回りで原本を郵送するには国際郵便を用いなければならず、紛失や遅延のリスクもあるため、実際の運用では慎重な対応が必要です。
次に、戸籍による相続人の確定を求められます。被相続人の出生から死亡に至るまでの連続した戸籍、および全ての相続人の現在戸籍を揃える必要があります。しかし、相続人の中に既に日本国籍を離脱し米国市民となっている方が含まれると、その方の「日本の現在戸籍」が存在せず、金融機関や法務局に対し、出生証明書や婚姻証明書、パスポート、死亡証明書などを用いて相続関係を立証するという追加の煩雑さが発生します。各証明書が英語の場合には、翻訳も必要になります。
このような煩雑さから、日本国内に財産を残す予定がある方は、生前のうちに遺言を作成し、なるべく遺産の処理を簡素化できるような準備をしておくことが重要です。
②カリフォルニア在住者が日本で発生した相続の相続人や受遺者となった場合
次に、カリフォルニア州に住んでいる方が、日本にいる親族の相続に巻き込まれるパターンを見ていきましょう。典型的なのは、親や祖父母などが日本で亡くなり、カリフォルニア在住の方がその相続人または受遺者となるケースです。この場合も、日本法に基づく相続人としての関与が求められることになります。たとえば、遺産分割協議書の作成への署名、印鑑証明やサイン証明の取得、日本の家庭裁判所における調停・審判の申立て手続きへの関与などが考えられます。
気を付けなければならないのは、相続人としての自覚がなかったにもかかわらず相続に巻き込まれるケースです。日本には戸籍制度があるため、相続から数十年が経過していたとしても、相続人の追跡・確定ができるようになっています。そのため、突然、全く知らない親族から、名義変更をしていなかった先祖名義の土地があるので名義変更手続きに協力してほしいと連絡が入ることがあり得るのです。このような場合も、手続きに協力しようとすると、総領事館等での認証の手間や費用がかかります。なお、単純に手続きへの協力を拒否するだけで解決にはならないことにもご留意ください。もし、その遠縁の親族がどうしても土地の名義を得たいと考えている場合には、裁判を提起するしかなくなりますので、被告として裁判に巻き込まれてしまうこともあり得ます。相続を放棄することもできますが、日本の家庭裁判所において相続放棄の申述をしなければなりません。
③面倒な手続を回避するための対策
日本に所在する財産の相続対策は、居住地にかかわらず、日本の法律に従った公正証書遺言を作成するのが最善でしょう。これにより、遺産分割協議書の作成と戸籍の網羅的な収集の必要性がなくなります。遺言執行者を指定しておけば、遺言執行者の権限で預金等の解約、名義変更、分配ができますので、相続人・受遺者の負担を最小限に抑えることができるようになります。公正証書遺言は、原則として日本にある公証役場で作成しますが、日本国外に居住している日本人については、領事が公証人の代わりに作成することができるようになっていますので、米国内でも作成が可能です。
弁護士
戸木 亮輔
カリフォルニア州・日本(第一東京弁護士会)
KANAME PARTNERS US
949-404-5515
togilaw.com