お仕事探しはこちら!

【資産】熟年夫婦が直面する離婚時の問題点

2026.07.15

配信

【資産】熟年夫婦が直面する離婚時の問題点



 20年、30年と長年連れ添ったご夫妻でも、さまざまな事情から離婚を決意されることがあります。若いご夫婦の離婚では、子どもの親権や養育費が中心になることが多いのに対し、熟年離婚では、主な争点は財産分与とアリモニー(Spousal Support)になります。長く一緒に生活してきたからこそ財産関係も複雑になりやすく、離婚後の生活設計にも大きく関わります。

1. 離婚手続をする場所

 まず確認すべきは、どこで離婚手続きをするかです。日本で婚姻届を出しているご夫婦でも、カリフォルニア州に住んでいれば、カリフォルニア州で離婚手続きを行うことができます。カリフォルニア州では、原則として、少なくとも一方が州内に6か月、申立てをする郡に3か月居住していることが必要です。一方、ご夫婦がいずれも日本国籍であれば、日本法に基づき協議離婚、つまり離婚届を提出する方法を選択できる場合もあります。裁判をしなくてもよい分、手間や弁護士費用を抑えられる点は大きなメリットです。

 もっとも、日本の離婚届だけでは十分ではないケースが少なくありません。相手が約束した財産分与やサポートを支払わない場合、カリフォルニア州で裁判所の命令が必要になることがあります。また、後述する退職金口座の分割には原則として裁判所の命令が必要になり、離婚届と合意書だけでは金融機関やプラン管理者は動いてくれません。手続費用を抑えるつもりが、後から余計に複雑になることもあるため、最初に全体像を確認することが大切です。

2. 共有財産と特有財産の選別

 次に、共有財産と特有財産の選別です。カリフォルニア州は共有財産(Community Property)制の州で、婚姻中に得た収入や、その収入で購入した財産は、原則として共有財産として半分ずつに分けます。名義が夫だけ、妻だけであっても、それだけで結論は決まりません。反対に、結婚前から持っていた財産、別居後に得た財産、相続や贈与で得た財産などは、特有財産(Separate Property)として分割対象から外れるのが原則です。

 ただ、熟年離婚ではここが非常に難しくなります。結婚前から持っていた口座でも、何十年もの間に給与が入ったり、生活費の支払いに使ったり、夫婦の共同口座と行き来したりしていると、どこまでが特有財産で、どこからが共有財産かを追跡することが困難になります。理屈の上では特有財産だとしても、証明できなければ実務上は共有財産として扱わざるを得ないこともあります。古い通帳、ステートメント、購入時の記録などが残っているかどうかが重要になります。

3. 退職金・年金口座の分割

 退職金口座や年金も見落とせません。401(k)、企業年金、その他のリタイアメントプランは、婚姻中に積み立てられた部分について共有財産となり得ます。特に長期婚では、これらが自宅不動産と並ぶ最大の資産になっていることも珍しくありません。ところが、通常の銀行口座のように、夫婦の合意だけで簡単に半分を移すことはできません。多くの企業年金や401(k)では、QDRO(Qualified Domestic Relations Order)と呼ばれる命令が必要になります。これは、プラン管理者に対し、加入者本人ではない元配偶者(Alternate Payeeと呼ばれます)にも一定の権利を認め、どの割合・方法で支払うかを指示するものです。QDROに基づいて分割されると、元配偶者はプランの条件に従い、自分の退職口座へ移管したり、一定の時期に分配を受けたりすることになります。ただし、IRAはQDROではなく、離婚判決や合意に基づく別の移管手続で処理されることが多いため、口座の種類ごとに確認が必要です。

4. リタイア後のアリモニー

 財産分与と並んで重要なのがアリモニーです。アリモニーは、収入の多い配偶者が、収入の少ない配偶者の生活を一定期間支える制度です。結婚期間が長い場合、裁判所が長期にわたり管轄を残し、支払いを命じることができる余地はあります。しかし、これは「一生必ずもらえる」という意味ではありません。支払いを受ける側にも、可能な範囲で自立する努力が求められますし、支払う側がリタイアして収入を失えば、支払い能力そのものが問題になります。支払う側が死亡した場合には当然に終了します。リタイア後の生活費、年金収入、健康状態、就労可能性などを踏まえ、現実的な見通しを立てる必要があります。

5. 離婚後の日本での手続

 最後に、日本での手続きです。米国の裁判所で離婚が成立した場合、日本の戸籍に反映させるため、領事館または日本の役所に離婚届を提出します。通常は、カリフォルニア州の最終判決文(Final Judgment)と和訳を添付します。

 反対に、日本の方式で離婚届を出した場合、アメリカには日本の戸籍のように離婚を一元管理する制度はありませんので、一般的にどこかの役所へ登録する手続きはありません。ただし、ソーシャルセキュリティーなど、元配偶者として給付を受けられる可能性がある制度がありますので、そのような場合には個別に対応する必要があります。婚姻期間が10年以上ある場合には、元配偶者の記録に基づく給付を受けられる可能性もありますし、すでに給付を受けている場合には、結婚・離婚などの身分関係の変更を社会保障局(SSA)に伝える必要があります。

 熟年離婚は、感情の整理だけでなく、老後の生活設計そのものに直結します。早く終わらせたい、なるべく費用をかけたくない、というお気持ちはよく分かります。しかし、財産、退職口座、アリモニー、日本側の手続を一つずつ確認しないまま進めると、後から取り返しのつかない不利益が生じることがあります。離婚を考え始めた段階で、まずは資料を集め、全体像を把握することをお勧めします。


弁護士
戸木 亮輔
カリフォルニア州・日本(第一東京弁護士会)
【電話】949-404-5515
【ウェブサイト】togilaw.com

毎週更新中!

BaySpoスタッフブログ

この記事に関連する記事

一覧ページにもどる

share with ups!

新規会員登録

ベイエリアの求人・仕事情報・お知らせ・募集・不動産・個人売買情報はBaySpo!
無料で会員登録をすると、bayspo.comをもっと便利にお使いいただけます。

新規会員登録をする

サクッと読める!
BaySpoとeじゃんデジタル版をチェック!