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アメリカの遺産相続

2023.05.02

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アメリカ生活において、財産や税金、相続について心配を抱く人も多いかもしれない。ここでは遺産相続に不可欠なエステ―ト・プランニングや相続手続きについて解説する。

エステート・プランニング  


エステート・プランニングとは簡単に言うと、自分の健康状態が悪化した場合に自分の医療処置や財産管理について、どう対応するかを考え計画すること、また更に自分の死後の財産分与方法を予め決めて手配しておくことである。その過程において税金を最小限に抑えるように計らい、またプロベート(Probate)という裁判所監視下で執行される遺産相続検認手続きを回避できるようにすることは、エステート・プランニングの最たる利点だが、それ以外に強調されるべき利点は、大病時に備えて準備ができている安堵感や、遺産相続時に遺族間の調和維持に役立つなどの、無形の効果である。

リビングトラスト(生前信託)を活用した遺産相続  


米国ではリビングトラストは相続において頻繁に使われ、中でも最も典型的なものが撤回可能生前信託(Revocable Living Trust)である。リビングトラストを設立し自分の財産をトラスト財産とすると、一般的に次のような利点がある。
(1)生前は財産を従来通り自分のものとして自由に所有・管理することができる。
(2)自分が信頼する人を継承受託者(Successor Trustee)として予め指名しておけるので、病気や高齢などの理由で財産管理ができなくなった場合はその人に財産管理を託すことができる。(3)死後、トラスト財産はプロベートの対象とならず、継承受託者によって受益者(Beneficiary)に配分されるか、又は引き続き受益者のために管理されるように計らうことができる。継承受託者は、家族や親戚の一員や友人などが適任である場合もあれば、トラスト業務を仕事とする個人、又は銀行などを指名した方が良い場合もある。

リビングトラストを用いた遺産相続計画は、様々な状況を想定して準備できるので、最も順応性に富んだプランと言えるだろう。

プロベート(遺産相続検認手続き)  


エステート・プランニングの利点の一つとしてプロベートを回避できるようにすることを前述したが、ここでプロベートとは何か、そして遺産がプロベートを通して相続人に配分される手続きとはどの様なものであるかを簡単に説明する。  

プロベートとは被相続人の死後、裁判所の監視下で執行される手続きで、その目的は

(1)被相続人の財産を確認し負債と税金を支払う
(2)遺言書があれば、それが正規なものであることを確認する
(3)遺産の受取人を確認し財産を配分する

などがある。

プロベートの情報は一般公開の対象となる。手続きに要する期間は1年から1年半だが、より長期になる場合もある。プロベートの手続きには法令で定められた弁護士費用と執行者費用が伴い、それはプロベート対象の遺産に対するパーセンテージで計算される。例えば、死亡時の価値が100万ドル($1million)の住宅がプロベートの対象となった場合、弁護士費用と執行者費用はそれぞれ2万3千ドル($23,000)となり、計4万6千ドル($46,000)が被相続人の遺産から支払われ ることとなる。住宅にローンが残っていたとしても、弁護士と執行者費用はローンの額に関係なく計算される。  

自分の財産を生前中にプロベートの対象とならない財産とすることでプロベートは回避できる。プロベートの対象とならない財産の例をここに挙げる。
 ・Trust assets(トラスト財産)
 ・Joint tenancy(二人以上による共有財産権で、一当事者の死後、生存者に権利が移る)
 ・Community property with right of survivorship(配偶者間の共有財産権で一配偶者の死後、生存配偶者に 権利が移る)
・Multiple party accounts(ジョイント口座)
・POD(payable on death:死亡時の受取人の指名がある銀行口座など)
・TOD(transfer on death:死亡時の受取人の指名がある投資口座など)
・Life insurance and retirement accounts with designated beneficiaries(受取人(Beneficiary) が指名された生命保険や退職金口座)

税金対策  


リビングトラストや遺言書の作成など遺産分与の準備・計画に際して考慮すべき重要点の一つに税金対策がある。贈与税・遺産税に限らず、キャピタルゲインに課される税、更に固定資産税も含めて、生前に十分な準備・計画をしておくことで後々の税金を大幅に減額できる場合がある。

 ●贈与税・遺産税(Gift Tax/Estate Tax)  
日本の相続人に課される相続税と違い、米国贈与税・遺産税は、贈与した人・被相続人の遺産に課されるもので、2023年時点での控除額は米国市民と永住権保持者共に1292万ドル($12.92million)。永住権保持者も米国市民と同様、遺産の価値が控除額以内であれば、遺産税は課されない。遺産価値がそれを上回る場合に米国市民と永住権保持者とでは違いがある。永住権保持者(即ち非米国市民)である生存配偶者が、配偶者から遺産を受け取った場合には、控除額の超過分に対して40%の遺産税が課されるかも知れない。

●所得税(Income Tax)  
贈与・相続によって受け取った財産は所得税の対象外となり、受取人への課税はない。

 ●キャピタルゲイン税(Capital Gain Tax)  
キャピタルゲインは一般的に売却価格からベーシス(Basis)(当初取得価格)を差し引いた額で、非課税枠からの超過分が課税の対象となる。つまり売却時にベーシスが高ければ、キャピタルゲインは少なくなるわけなので、被相続人の遺産のベーシスを死亡時の市場価値額に修正する「Basis Adjustment」または「Step-Up in Basis」という税法を理解し、フルに利用することが大切である。これに関連して、自宅が配偶者二人の共有財産(Community Property)である場合、その所有権は「Joint Tenancy」ではなく「Community Property with Right of Survivorship」とする方が一般的に有利である。 

●カリフォルニア州固定資産税(California Property Tax)  
不動産を親から子へ遺産として残す場合、親の査定額(Assessment)を子が引き継ぎ、固定資産税を最小限に抑えられる場合がある。2021年2月16日以降の相続において親の査定額を子が引き継げるのは、不動産が親の自宅(または Family Farm)であり、且つ子がその不動産を自分の自宅(また はFamily Farm)とした場合に限られ、その場合も一定の限界がある。また、親の主たる財産が自宅で、それを複数の子達の一人が引き継いだとする。不動産の所有権がその子に移行した後で、その子が兄弟姉妹への現金配分等の目的で新たなローンを組むと、その分が改めて査定され増税される恐れがあるので注意が必要。親がリビングトラストを設定し準備をすることにより、増税を避ける計らいができる。

日本への帰国  


もし将来日本へ帰国して暮らしたいと考えるなら、米国における財産をどうするかについてじっくり検討する必要がある。一番簡単なやり方は米国の財産を処分することだが、もし財産を残し ておきたい場合、まず税の面で検討すべき点は出国税(Exit Tax)の課税があるかどうか。次に、非米国市民が日本に住所を移した後亡くなると、米国財産の遺産には40%近くの米国遺産税が課される可能性がある点も注意が必要。相続に関する日米条約の適用可否を含め、日本帰国前に米国の税理士に相談しておくことを勧める。日本居住の被相続人の遺産は、米国の財産も含め全世界の財産が日本の相続税の対象になるので、日本の税理士にも相談することを勧める。また、前述したように一般的にプロベート対策としてリビングトラストが必要となるが、その受託者(Trustee)には米国在住の個人または銀行などを選ぶ必要があるかもしれない。  

この記事に記載される内容は一般的な情報であり、特定の状況に応用できる助言ではない。それぞれの相続や税金などに関してはここに記載された情報に頼らず、エステート・プランニングを専門とする弁護士や税理士に相談しよう。

情報提供:メリット法律事務所 メリット大橋ゆか弁護士
www.yukamerrittlaw.com

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