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海外在住者の日本語教育について

2023.05.26

配信

日本を離れて海外で暮らす場合の日本語教育について、その意義や注意点について考えてみる。 ※ここでの海外は日本国外の意味

3通りの日本語教育


海外在住者の日本語教育は「母語」「継承語」そして「第二言語」としての3通りが考えられる。「母語」(Mother Tongue)は日本で生まれ育った子どもが海外に渡り日本語を忘れないように継続して学ぶ場合、「継承語」(Heritage Language)は海外で生まれ育った子どもが親から受け継いだ言語として学ぶ場合、そして「第二言語」(Second Language)は日本語を外国語として学ぶ場合である。

この時に注意が必要なのは、一概に日本国籍を有するから母語だ、外国籍だから第二言語だ、と括(くく)れない点である。例えば、外国籍両親の下日本で生まれ育った子ども達は、戸籍上は「外国人」でありながら日本人に全く引けを取らない日本語(場合によっては方言)を流暢に話すことがある。一方、両親が生粋の日本人であっても海外での滞在期間が長くなるにつれ、本来は母語であった子ども達の日本語が家庭内のみの使用に限定されるようになり、現地校での学習言語である英語の方が次第に強くなるケースも多々ある。一定期間海外に渡った日本国籍の帰国子女も、日本帰国後に日本語の日常会話に不自由しなくても授業内容が理解できず、学習活動に支障が生じるケースが多いと聞く。他にも、日本国籍保持者であっても国際結婚の場合など家庭内言語が日本語ではない場合も多く見られるようになってきている。

学習者のさまざまな背景を考慮する


海外在住者に対する日本語教育の成否は、対象となる子どもの年齢や学習動機、居住する地域社会、二言語使用の環境、親の関心と協力、本人の興味とやる気など、数多くの要因に左右される。学習者の背景はさまざまであることを理解し、きめ細かく対応することが肝要であり、その際、適切な学習方法と教材を選ぶことも必要だ。

この点で、海外在住者が日本語を学習する際に日本で教育を受ける子どもたちのために作られた「国語」教科書だけに頼るのは危険な場合がある。例えば、日本から渡米したばかりの子どもでも、年齢や家庭環境にもよるが、英語環境での生活が長くなるにつれ、確実に語彙力が不足してくる。したがって、限られた学習時間の中で「国語」としての日本語を完璧に身につける努力をするよりも、海外在住者特有の誤用に焦点を当て、そこを強化するような学習法が有効になることもある。

海外在住者に多い誤用


では、海外在住者特有の誤用や落とし穴とは何か。例えば、まず英語による干渉の問題がある。これは、英語話者であるがゆえに起こる問題であり文法的に誤りではないが不適切な表現となる。「ピアノを弾く」が「ピアノを遊ぶ(play piano)」あるいは「コーヒーはいかがですか」が「コーヒー飲みたいですか(Would you like to drink a cup of coffee?)」などだ。また、文から助詞が脱落したり、不適切な助詞を使用したりすることもある。「先生が東京へ行く」が「先生東京行く」あるいは「きれいな花」が「きれいの花」などだ。さらに、日本人が自然に使いこなしているオノマトペも海外在住者の場合、意識的に学習しなければなかなか身につかない。オノマトペとは擬態語(ふっくら、すべすべ)、擬音語(ガチャン、ドスン)、擬声語(ワンワン、ブーブー)のことだ。日本語は動詞の種類が少ないため、オノマトペを適切に用いることで表現の幅を広げることのできる魔法の言葉である。海外在住者は「きらきら」と「ぎらぎら」の違いや「ぷるぷる」と「ぷりぷり」、「ことこと」と「ぐつぐつ」の違いが分からない場合も多い。

学習目標と学習スタイルを見つける


さて、こうした状況の中で日本語教育を始めるにあたってまず必要なことは、学習者にとっての日本語が母語なのか継承語なのか第二言語なのかを見極めることであろう。その上で、具体的な目標設定も欠かせない。目標は色々あって良い。日本に帰国後の受験対策、日本で休暇を過ごす程度の会話力の習得、専門的な事柄について議論できるレベルへの到達、日本のアニメを字幕なしで理解できること、などである。学習目標をしっかりと定め、そこに向かって学習を進めていくことで日本語学習のモチベーションも維持される。長期的目標が決まった後は短期的目標を定めることも勧める。例えば、小学生であれば漢検を目指すのも良いだろう。通常の試験は年に3回だが、CBT(Computer Based Test)の漢検であればいつでも何度でもチャレンジできる。また中高生であれば、漫然と日本語学習を継続するよりも思い切って資格取得に目標を切り替えることも有効だ。例えば、米国の大学の進学に有利になるAP Japaneseや、世界的に認められていて就職にも有利に働くJLPT(Japanese Language Proficiency Test、日本語能力試験)などだ。また、学習環境についても適切な選択をすべきだろう。クラスでクラスメートと共に学ぶことで刺激し合いながら学習する、個人レッスンで集中して自分のペースで 標に向かって突き進む、多忙すぎることが問題であればオンラインレッスンをうまく活用するなど、さまざまな学習のスタイルを選択することもできる。自分に合った学習目標と学習スタイルを見つけることが日本語学習を長く継続させるための秘訣だ。

言語を超えた異文化の理解  


ところで、ある言語を学ぶというのは、単にその文法や語彙を習得するだけではなく、その言語の背景にある文化を知り理解を深めるということでもある。海外に在住していても日本の文化を学ぶことは可能だ。さくら学園の子ども達も年初めには書初めをし、節分で豆まきをして心の鬼を退治する。雛人形をじっくり眺め、七夕には願いごとを短冊に書き、お月見には満月を愛でる。日本にいなくとも、五感を通して日本を感じられる機会を意図的に増やすことができるのだ。 

日々、現地校で英語による教科学習をする中、限られた時間の中で日本語学習を継続するには本人の努力は言うまでもないが、家族の力強いサポートも絶対に必要だ。それでも、こうした多大な労力をかけてまで海外で日本語学習を継続することには大きな意味がある。日本を外から客観的に眺め、先入観なしに日本の魅力を再発見することが可能になるのだ。また、日本文化のみならず、さまざまな異文化の価値を認めて尊重できる、本当の意味でのグローバルマインドをもつ縁にもなるだろう。こうした海外における日本語学習の成果は、将来日米の架け橋となる子ども達にとってかけがえのない宝物となるはずだ。

情報提供:さくら学園 園長 モナスティエロ佐智
www.eastbaysakuragakuen.com

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