リーマンショックの折に渡米し、当初は3カ月で帰るかも、と考えていたという藤田さんだが、今ではベイエリアが帰るべき場所だと感じるという。そんな藤田さんにベイエリアでの暮らしについて聞いた。
ベイエリアに住み始めたきっかけは?
前職でKLAアメリカ本社技術部のマネージャーが来日して、数週間仕事を共にしていたある日、将来に望むキャリアパスを聞かれました。アメリカでの勤務に憧れていることを伝えると、採用枠があるから挑戦してみたらどうか、とすすめられたのがきっかけでした。採用は2008年5月でしたが、引き継ぎに時間を要し、実際の渡米は同年11月です。
ベイエリアは折りしも2008年のリーマンショックによるレイオフの直後で、オフィスも閑散としていたので、妻には「3カ月で日本に帰るかも」とこぼしたぐらい暗い雰囲気でした。それでもベイエリアの爽やかな気候や、日本ではなかなかお目にかかれないリスやアライグマやスカンクを見て一喜一憂したり、ファーマーズマーケットで買う野菜のおいしさに感動したりしていました。また、当時のインターネットはADSLしかなく、日本の光ファイバー通信の方が速かったことに驚きました。
今ではベイエリアは、出張で各国回ってもサンフランシスコ空港やサンノゼ空港に降り立つと成田空港や関西空港に着くよりもほっとするので、「帰るべき場所」なのだと思います。
どんなお仕事をされていますか?
自動運転のADAS(先進運転支援システム)に必要なLIDAR(光学測距)機器の新製品導入担当であるシニアNPI マネージャーとして、新規製品導入を担当しています。ベイエリアでは多くの専門分野のエンジニアが最新の技術を生み出します。それらを理解しうまくつなげ調和させ、新規製品を世に送り出す架け橋の役割を担っていると考えています。
その道に進むことになったきっかけは?
渡米当初は半導体製造・検査装置のシステムエンジニアとして開発に携わり、その後はテクニカルサポートエンジニアとして世界各国の顧客工場を飛び回る日々が続きました。問題は常に現場で起こっているので、技術者として一つ一つ論理的な思考と行動で解決していくことに喜びを感じるようになりました。
アメリカに誘ってくれたマネジャーがCeptonを起業してNASDAQに上場を果たし、縁あって再び声を掛けていただいて、現職に就いています。
英語での成功体験、失敗体験があれば教えてください
妻の健康診断の予約を電話で取り、当日一緒に行くと受付の方から「あなたの妻の予約は今日13日には入っていない、30日だ」と言われたことが、一番嫌な汗をかいた失敗体験です。
成功体験としては、ハンバーガー店のドライブスルーで口頭で注文が通り、全て正しい商品が渡された時ですが、袋の中身を確認せず失敗したことは数えきれないほどあります。
あなたにとって仕事とは?
「面倒臭いことをやること」、でしょうか。今やっている仕事が面倒臭くなくなったら、面倒臭そうな仕事を探すと思います。
子供の頃に就きたいと思っていた職業、理由も教えてください
小学生の頃は全英オープンで活躍したプロゴルファーの倉本昌弘選手に憧れ、中学生の頃はF1ドライバーの中嶋悟選手に憧れていました。今思うと、その頃から日本を出て世界で活躍したいという気持ちがあったのかもしれません。
休日はどんなふうに過ごしていますか?
日本語を使って子供たちとその保護者向けに、月1回の花育アートクラフトイベントを花育の先生の指導をいただきながら開催したり、子供の日本語学校と習い事のサポートや、料理をしたりしています。最近はF1のシミュレーションゲームで世界各国のコースを走っています。
最近日本に戻ったときに思ったこと、考えたこと、感じたことは?
日本はなるべく無駄が少なくなるように努めており、各個人はそれによる不便を受容している分、結構ストレスをためている気がします。アメリカは無駄が多いですが、その分各個人は楽な気がします。
日本へのお土産には何を持っていきますか?
以前はシーズ・キャンディーズのお菓子やトレーダージョーズの調味料、地元で焙煎したコーヒー豆、バリアーニのオリーブ油やカリフォルニアワインをお土産としてよく持っていきました。
日本からベイエリアに持って帰ってくるものは?
重量物で送料がかかる本・雑誌、オンラインでは手に入らないお菓子、親戚が作るお米、日本の高品質な肌着や文房具、地酒を持って帰ってきます。
現在のベイエリア生活で、不便を感じるときは?
あまりにもネットに依存し過ぎているので、スマホやパソコンが故障したりバッテリー切れを起こした際は不便さと不安を感じます。
現在のベイエリア生活で不安に感じることは?
急激なインフレ、山火事などの自然災害、治安の悪化への不安が増してきているように感じます。
日本に郷愁を感じるときは?
車でラジオを聴いていて、日本の曲が流れた時に郷愁を感じます。久石譲さんや坂本龍一さんの曲など。
おすすめの観光地は?
初夏のマウントシャスタは、澄んだ空気と水が心を癒やすには最適な観光地だと思います。
5年後の自分に期待することは?
それまでには、子供たち向けのNPOを立ち上げて、活動の輪がもっと広がっていればと考えています。
座右の書は?
『クッキングパパ』です。
最近読んで印象に残っている本は?
『The Science of Interstellar』です。地球の気候変動、ワームホールやブラックホールを描いた映画『インターステラー(Ingterstellar)』の科学考証解説本で、カリフォルニア工科大学の理論物理学の教授が映画の中の物理現象を説明しています。
これまで見た中で影響を受けた、または印象に残っている映画は?
クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』。映画内の物理現象の理解を深めるのに前記の解説本まで買いましたが、それ以上に親子愛が強く描かれていて出張中の機内で涙しました。
最近見て印象に残っている映画は?
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム(Spider-Man:No Way Home)』。これまで裏歴史になりがちな過去の作品まで再登場させることで新たな映画の可能性を作り出した、マーベルスタジオの手法に感動しました。
座右の銘は?
「なんとかなる」「You have to leave something behind to move forward」。
プロフィール
藤田 維斗
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Koreto Fujita
長崎市出身。大学卒業後は半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン九州(株)に続いてKLA Corp.に勤務し、2008年に渡米。現在、光学測距機器メーカーCepton Inc.にてSr. NPI Managerとして勤務。2020年よりスペシャルニーズの子供向けの花育アートクラフトイベントを企画し、毎月1回開催。妻と息子の3人でサンノゼ在住。
【花育アート】www.instagram.com/mariposa_grove
www.facebook.com/Mariposa-Grove-Japan-105140638673613