リタイアメントの計画に伴いご遺産の配分方法を準備・計画したいとお考えですか? リビングトラストという言葉をご存知の方も多いかと思います。米国では一般的な相続・財産管理の手段です。リビングトラストを設立し、ご自身の財産をトラスト財産とすると、一般的に次のような利点があります。
(1)生前は、財産を従来通り自分のものとして自由に所有・管理、または売却することが出来ます。
(2)信頼する人を継承受託者としてあらかじめ指名しておけるので、病気、高齢などの理由で財産管理ができなくなった場合、継承受託者に財産管理を託すことが出来ます。
(3)死後、トラスト財産はプロベート(裁判所監視下で執行される遺産相続検認手続き)の対象とならず、継承受託者によって受益者に配分されるか、引き続き受益者のために管理されるように計らうことができます。継承受託者は多くの場合、家族・親戚・友人などから選びますが、職業継承受託者を指名することが適切な状況もあります。リビングトラストを用いた遺産相続計画は、様々な状況を想定して準備出来るので、最も順応性に富んだプランと言えます。
一般的な例として、次のような方々はリビングトラストを設立することの利点が特に多いと思われます。
(1)未成年のお子さまがいる方。お子さまが未成年のうちにご自身が死去する場合を想定し、親に代わってお子さまの保護者の役割を果たす後見人と、お子さまのために財産をトラスト財産として引き続き管理する継承受託者を指名しておくことができます 。
(2)財産管理ができない、または不得意なお子さまを持つ方。
(3)ご自身だけの名義で不動産を所有する方。
(4)受益者が多数いる方や、比較的複雑な遺産配分を希望する方。
税金対策
リビングトラストや遺言書の作成など、遺産分与の準備・計画に際して考慮すべき重要点の一つに税金対策があります。状況によってはリビングトラストが税金面で有利に働くこともあります。贈与税・遺産税に限らず、売却益に課されるキャピタルゲイン税、更に固定資産税も含め、生前に準備・計画しておくことで後々の税金を大幅に減額できる場合があります。
贈与税・遺産税
(Gift Tax/Estate Tax)
日本の相続人に課される相続税と違い、米国贈与税・遺産税は、贈与した人・被相続人の遺産に課されるもので、2023年時点での控除額は米国市民と永住権(グリーンカード)保持者共に1292万ドル($12.92million)です。永住権保持者も米国市民と同様、遺産の価値が控除額以内であれば、遺産税は課されません。
キャピタルゲイン税
(Capital Gain Tax)
キャピタルゲインは売却価格からベーシス(Basis)(一般的に当初取得価格)を差し引いた額で、非課税枠からの超過分が課税の対象となります。つまり売却時にベーシスが高ければキャピタルゲインは少なくなるので、被相続人の遺産のベーシスを死亡時の市場価値額に修正する「Basis Adjustment」または「Step-Up in Basis」という税法を理解し、フルに利用することが大切です。
カリフォルニア州固定資産税
(California Property Tax)
カリフォルニア州の不動産を親から子へ贈与または遺産として譲渡する場合、親の査定額(Assessment)を子が引き継ぎ、固定資産税を最小限に抑えられる場合があります。2021年2月16日以降の譲渡において親の査定額を子が引き継げるのは、不動産が親の自宅(またはFamily Farm)であり、なおかつ、子がその不動産を自分の自宅(またはFamily Farm)とした場合に限られ、その場合も一定の限界があることとなっています。
日本への帰国
将来日本へ帰国して暮らしたいとお考えの方は、米国における財産をどうするかについて、帰国予定の数年前から十分検討することをお勧めします。相続と税の面から見て一番簡単なやり方は米国の財産を処分することですが、不動産をそのまま維持なさりたい方やIRAなどのリタイアメントアカウントの残高がある方もいらっしゃることと思います。永住権(グリーンカード)の放棄の際に出国税の課税があるかどうかについて、米国税理士とご検討ください。
また、非米国市民が日本に住所を移した後亡くなると、前述した遺産税の控除額1292万ドルは該当せず、米国の不動産を含む一定の遺産に対して40%近くの遺産税が課される可能性があるという点も注意が必要です。相続に関する日米条約の適用可否を含め、日本帰国前に日米双方の相続に精通する米国の税理士に相談することをお勧めします。また、米国の財産、特に米国の不動産に関しては、プロベート対策としてリビングトラストが必要となるかもしれませんが、その受託者(Trustee)には米国在住の個人または銀行などを選ぶことをお勧めします。
さらに日本居住者の遺産は、一定の例外を除いて全世界の財産が日本の相続税の対象になるので、遺言書の作成なども含めて日本の税理士に相談することをお勧めします。
この記事に記載される内容は一般的な情報であり、特定の状況に応用できる助言ではありません。皆様それぞれの相続や税金などに関してはここに記載された情報に頼らず、税理士やエステート・プランニングを専門とする弁護士にご相談下さい。
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