スタートアップの聖地シリコンバレーでの日本企業の挑戦

注目のテックイベント 　

9月19日より3日間、サンフランシスコ・ダウンタウンにある展示場モスコーンセンターにおいて、米国テクノロジーメディアのTechCrunchが主催するテクノロジーイベント「Disrupt」が開催されました。同展示会は、起業家・投資家・技術者などのスタートアップ関係者が集うイベントで、過去には民泊プラットフォームのAirbnbや、ライドシェア・フードデリバリーのUberが登壇して成果を出すなど「スタートアップの登竜門」と評されています。昨年、コロナ後に3年ぶりにリアルで開催し、今年は来場者が1万2000人（昨年より2000人増）を超え、大変な活況を呈していました。

 日本企業10社が参加 　

米国では、利上げやシリコンバレーバンクの破綻などの影響で、昨年に比べ投資環境が厳しい状況にありますが、シリコンバレーは引き続き世界一の起業環境を維持しています。また、分野においては引き続きテクノロジー関係が注目を集めています。特に生成AI & ML（機械学習）とEコマースに投資が集中しており、バイオテック、フィンテック、インフォセック、Web3と続いています。そのような中、日本の有望なスタートアップ10社がDistruptのジャパンパビリオンに参加しました。初日の午後にはピッチイベントに登壇し、自社の技術・サービスを多くの観衆の前でアピールしました。 　

Qlay Technologies, Inc. は、消費財ブランドの商品企画・開発を支援するための生成AIツールとして、オンライン上の口コミやSNSの投稿などの定性情報から消費者の志向を可視化し、データ処理のコストが削減されるとともに、商品開発のサポートに効果があります。米国での展開に向けてPoC（概念実証）のパートナーの発掘を目指しています。 　

Final Aim, Inc. は、ブロックチェーンとスマートコントラクトの技術を使い、デザイン設計と製造業のワークフローの管理業務を70％削減することが可能です。既に日本の大手の企業と連携を進めており、今回の出展を契機に更なる投資家の発掘を期待しています。

 経済産業省の施策 　

日本政府は「新しい資本主義」において社会課題を成長のエンジンに転換し、持続可能な経済社会を実現するために2022年から「スタートアップ5カ年計画」を進めています。2027年には、日本のユニコーン（時価総額1000億円超の未上場企業）を昨年の6社から100社に、日本のスタートアップを同1万社から10万社創出することを掲げています。我々ジェトロもその支援の一翼を担い、スタートアップの海外展開における起業家の育成・支援を加速させています。直近では、経済産業省が「海外における起業家等育成プログラムの実施・拠点の創設事業」として日本のイノベーション創出の加速と、スタートアップ・エコシステム形成を目的としてシリコンバレーのパロアルト市にビジネス拠点を設立しています。特に世界基準の行動感覚やネットワークを有するイノベーション人材の輩出と、グローバルな先端地域と日本のスタートアップ・エコシステムとの繋がりの強化が期待されます。

 日本企業もオープンイノベーションに注力 　

日本企業の躍進はスタートアップに留まりません。昨今では、オープンイノベーションの強化、CVC投資（事業会社による社外のベンチャーに行う投資）を活性化させています。2020年の調査によると日本72、米国（ベイエリアに本社を置く企業を除く）39、フランス22、ドイツ20、中国19と、ベイエリアにおいて日本が最も多くイノベーション拠点を設置しています。イノベーション拠点では、イノベーションの情報収集や研究、CVCなどの役割を担っています。ジェトロでは、日本企業とスタートアップ等の海外企業の国際的なオープンイノベーション創出のためのビジネスプラットフォームであるJ-Bridge（www.jetro. go.jp/j-bridge/）を運営しています。海外企業とのアライアンス（業務提携・技術提携・出資・合弁事業設立等）やM&Aにより、ビジネス開発や新規事業創出等を目指す日本企業、大学、研究機関などの皆様をサポートしています。シリコンバレーの活力を取り込み、日本企業の更なる飛躍を後押し出来たらと考えています。

小林 努（こばやし・つとむ）
日本貿易振興会入会後、松江、シンガポール、東京本部などで中堅・中小企業の海外展開を支援。2023年8月よりサンフランシスコ着任。米国スタートアップの日本進出、米国企業と日本企業の協業・連携支援を担当。