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あなたの「今」が輝くために−其の百三十九

2024.05.01

配信

観光客

 桜の季節が過ぎ、新緑まぶしい京都です。今年はお花見を楽しむ海外からの観光客の方も多く、京都で桜の名所といわれるところは、どこもかしこも多くの人で賑わっていました。賑わいすぎて、身動きが取れないほど。子どもの頃は毎年、家族で夜桜を見に行っていましたが、高齢の両親に人混みは危険で、とても一緒には行けません。そう思っているのは私だけではないようで、観光客が増えることで起こる様々な問題も含めて、住人にとっては昔のようには楽しめず、ちょっぴり残念な桜の季節でした。それは、新緑の季節になっても同じこと。そして、京都だけのことでもありません。先日、仕事で東京に行きましたが、東京も京都に負けず劣らずの混雑ぶり。驚くことに、山形出身の友人が言うには、山形の山奥にも海外からの観光客が押し寄せているとか。こうなってしまえば、「お・も・て・な・し」などと、悠長なことは言っていられません。

 だって、京都に住んでいる者からすれば事態は切実。あまりの観光客の多さに、市バスには乗れず、タクシーもつかまりません。近所にある錦市場は観光地化してしまい、昔馴染みのお店に行くのも一苦労。なかには、お商売を辞めて、テナントとして貸し出されるところも。そして、夜桜も見に行けないとなれば、排斥運動というのは、こうして始まってしまうのかなと、ふと思います。最初は歓迎していても、自分たちの生活が脅かされてくると、排除したいという思いが出てくるのです。自分自身も色々な国や場所に、観光客として訪れてきたというのに。

 さて、私が日本に帰ってきて、早13年半。うれしいことに、その時の友人たちが、今でも京都に遊びに来てくれます。先日もアメリカに住む友人から、同僚たちとバケーションで日本に行くから、京都の大行寺にお参りしてもいい? と連絡がありました。もちろん! と、熱烈歓迎。楽しい時間を過ごしましたが、つくづく勝手なものだと思います。観光客のすべてがダメなのではないのです。自分の友人や、その友人はいいのです。みんなだれかの友人で、みんなどこかで繋がっているのに、自分勝手に線引きし、排除していたのです。いえ、しているのです。そしてこれは、観光客に対してだけのことではないのです。きっと。


写真:Noriko Shiota Slusser

英月(えいげつ) 真宗佛光寺派長谷山北之院大行寺住職。江戸時代から続く寺の長女として、京都に生まれる。同業者(僧侶)と見合いすること、35回。ストレスで一時的に聴力を失う。このままではイカン! と渡米。北米唯一の日本語ラジオ「サンフランシスコラジオ毎日」でパーソナリティーを勤める他、テレビ、ラジオCMに出演。帰国後、大行寺で始めた「写経の会」「法話会」に多くの参拝者が集まる。講演会、テレビ出演、執筆など活動は多岐にわたる。最新著書は『二河白道ものがたり いのちに目覚める』(春秋社) 。

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