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あなたの「今」が輝くために−其の百三十一

2023.08.31

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切り花じゃない! 

 サンフランシスコに住んでいた頃、studioアパートメントのあちこちに大小さまざまなグリーンを飾っていました。その中には、ちょっと大きめのローズマリーの鉢植えもありました。

 さて、日本に帰国してからのことです。あるご門徒さん(檀家さん、英語でいうところのメンバーさん)のお宅にお参りすると、日本では珍しいローズマリーの鉢植えが目に留まったので、「香りが大好きなんです」と何気なく言ったことがありました。すると帰る時に、小さな植木鉢に挿し木にして渡してくださったのですが、なんとわずか数日で枯らしてしまった私。お詫び方々そのことをお伝えしたのは、確か2年前のこと。今年、お盆のお参りに伺うと、わざわざ種から育て、ある程度の大きさになったものを、ご用意くださっていました。ご門徒さんのお気持ちがとても嬉しかったのと同時に、種が持つ力にも改めて驚かされました。

 なぜなら、胡麻よりも小さいというローズマリーの種、その中にローズマリーのデータがすべて入っていることに気づかされたからです。種を土に蒔き、水や養分を与えると成長する。私たちも同じではないでしょうか。私を生み出した、いのちの種があるのです。けれども目に見えないからないことになっている。そしていつしか、自分だけで生きている気になっている。まるで、切り花です。どんなに元気で美しい花も、切り花だと1週間も持ちません。枯れてしまいます。私もいつしか、老い、病み、そして亡くなって、終わってしまう、そう思っています。しかし、それだけでしょうか? 私たちは切り花でしょうか?

 目には見えないけれど、いのちの根っこがあるのです、いのちの種があるのです。両親、祖父母、そのまた両親といった血の繋がりだけでなく、多くの出遇いが今の私を作り、そして支えてくれているのです。目には見えなくとも、この私のいのちは、大地にしっかりと根を張っているのです。その事実を知ることと、切り花だから枯れて終りだと思い込んでいるのでは、日々の生活も、そして私自身のいのちも、大きな違いがあるのではないでしょうか。

 今月はお盆でしたが、いのちを生き切った、いのちの先輩に思いを馳せることで、見えない自分の根っこに出合わせていただいた思いがします。そう、私たちは切り花じゃないんです。



写真:Noriko Shiota Slusser

英月(えいげつ) 真宗佛光寺派長谷山北之院大行寺住職。江戸時代から続く寺の長女として、京都に生まれる。同業者(僧侶)と見合いすること、35回。ストレスで一時的に聴力を失う。このままではイカン! と渡米。北米唯一の日本語ラジオ「サンフランシスコラジオ毎日」でパーソナリティーを勤める他、テレビ、ラジオCMに出演。帰国後、大行寺で始めた「写経の会」「法話会」に多くの参拝者が集まる。講演会、テレビ出演、執筆など活動は多岐にわたる。最新著書は『二河白道ものがたり いのちに目覚める』(春秋社) 。

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