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あなたの「今」が輝くために−其の百二十八

2023.06.01

配信

赤い看板  

 いつもは通らない道を歩いた先日のこと。この辺りに来るのは久しぶりだと街並みを見ていると、「鉄板焼・ねぎ焼・お好み焼」の文字と店名が目に飛び込んできました。赤い看板に白い文字。小さいけれど目立つその看板を見て、思わず目尻が下がります。それは数年前に友達に連れて来てもらった店でした。カウンターだけの小さな店に、ぎゅうぎゅう詰めになるように並んで座ったこと。パリパリになるまで焼かれた、鶏の皮の香ばしさ。鉄板の上で器用に焼かれた、だし巻きに驚いたことなどが、次から次へと思い出されます。それだけでなく、あの店、この店、色々行ったな、楽しかったなぁと、その友達と行った他のお店のことや、会話なども思い出され、一人で歩きながら、にこにこしてしまいました。そこで、ハッと気付かされたのです。その数日前に会った別の友達とは、まったく逆だったことを。

 数日前に会った友達というのは、地方に住む僧侶仲間で、数年に1度、京都にやって来ます。その度に仲間で食事に行くのですが、行ったお店を私が覚えていなかったのです。「この前行った焼き鳥屋、美味しかったね」と言われて、「え?焼き鳥屋って行ったっけ?」と言ってしまった私。どこのお店だ? というか、彼の思い違いで、私は一緒に行ってないのでは? と、思っていると、イタリアンも美味しかったよと続けられ、戸惑ってしまいました。コロナ前は外食が多かったから、どこのお店に行ったかなんて、いちいち覚えてないよと言い訳しそうになった私ですが、言葉を飲み込みました。友達が悲しそうな眼をしていたからです。当たり前です、一緒に行ったことを覚えていなかったのですから、失礼な話です。

 覚えていた友達も、忘れてしまった友達も、私にとっては共に大事な友達ですが、記憶というのは自分の意識や努力ではどうしようもできないものです。ハッとしたというのは、片方の記憶だけが鮮やかに残っていた事実に、私自身が驚かされたからです。その理由は分かりませんが、自分の記憶でさえも、自分ではどうすることもできないのです。色々な縁が整い、私の記憶として覚えていること、そして覚えていないことがある。そんなことを気づかされた、赤い看板でした。



写真:Noriko Shiota Slusser

英月(えいげつ) 真宗佛光寺派長谷山北之院大行寺住職。江戸時代から続く寺の長女として、京都に生まれる。同業者(僧侶)と見合いすること、35回。ストレスで一時的に聴力を失う。このままではイカン! と渡米。北米唯一の日本語ラジオ「サンフランシスコラジオ毎日」でパーソナリティーを勤める他、テレビ、ラジオCMに出演。帰国後、大行寺で始めた「写経の会」「法話会」に多くの参拝者が集まる。講演会、テレビ出演、執筆など活動は多岐にわたる。最新著書は『二河白道ものがたり いのちに目覚める』(春秋社) 。

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