BCネットワーク

2005年にニューヨークの日本人女性によって設立された米国認定非営利団体「BCネットワーク」は、乳がんの早期発見啓発や最新治療情報を日本語で広く発信している。毎年日米の都市でイベントを開催し、2019年にはベイエリア支部を発足。今年は10月1日（土）に、ベイエリアでの会場とオンラインのハイブリッド形式による講演会を行う（注）。   　

乳腺腫瘍内科医に聞く

今　BCネットワークは10月1日、「乳がん早期発見啓発セミナー」を行います。セミナーに先駆け、がん研有明病院・乳腺内科部長の高野利実医師にお話を伺いました。乳がんの治療法には、手術、薬物療法、放射線などがあり、腫瘍内科（medical oncology）の高野医師は、そのうちの「がん薬物療法」を担当しています。治療法や副作用、それに向き合う考え方についてアドバイスをいただきました。　

 治療法を知り、目標を考える

高野医師によれば、がん薬物療法には抗がん剤治療（化学療法）、ホルモン療法、分子標的治療などがあります。抗がん剤は点滴で投与することが多く、患者さんは外来化学療法室などで治療を受けます。投与時間は数分のものもあれば、複数の薬を5時間くらいかけて投与することもあり、また飲み薬の抗がん剤もあります。一方、ホルモン療法は飲み薬が多く、分子標的治療は点滴も飲み薬もあります。どの治療法を受けるかは、検査によって分かる乳がんのタイプに合わせて選択しますが、その前に大前提として考えておくべきなのは「目標」だと高野医師は言います。

また、治療目標は、病状や患者さん自身の価値観によっても違います。例えば、早期乳がんの術前や術後に行う薬物療法では「再発の可能性を減らすこと」が目標となり、遠隔転移のある進行乳がんでは「いい状態で長生きすること」などが目標となります。重要なのは、副作用などのマイナス面も考えて、プラス面の期待がマイナスを上回るというのを納得してから治療を受けること。何のためにやっているのか分からずに治療を受けるのは良くないと高野医師は訴えます。

つらい副作用を乗り越えるには

　抗がん剤治療では、脱毛、吐き気、白血球減少が3大副作用として知られていて、他にも多種多様な副作用が起こるといいます。副作用はやはり患者さんにとってつらいもの。どう乗り越えたら良いかについて高野医師は、「今受けている治療の目的を理解することが重要です。

目的に近づいているという実感のないまま、ただつらい思いをしているのであれば、その治療はやめた方が良いでしょう。例えつらくても、それよりも得られるものが大きいと思えるのであれば、つらさを和らげながらうまく続けていくことになります」と言います。腫瘍内科医の役目は、薬物療法を行うだけでなく「患者さんの道案内役」として、共に歩んでいくことだとも話す高野医師。「副作用を和らげる方法はいろいろとありますので、つらさを医師に訴えて、工夫してもらいましょう。つらさを周りの人に話すだけでも、気持ちが楽になることがあります。周りの人たちや医療従事者とも、目標を共有して、力を合わせて乗り切っていきましょう」と続けました。 　

「がん薬物療法は確実に進歩していますが、それとは別に、本当に目指すべきは患者さん一人一人が感じるその人なりの幸せで、そういう医療を私はHuman-Based Medicine (HBM)と名付けています」と高野医師。セミナーでは乳がん薬物療法の最近の話題を紹介しつつ、治療選択の考え方なども話してくれる予定です。

高野 利実 （たかの・としみ）医師
がん研有明病院・乳腺内科部長。東京大学医学部卒業後、同大学付属病院や国立がんセンター中央病院で経験を積む。2005年、東京共済病院に腫瘍内科を開設。虎の門病院臨床腫瘍科部長を10年間務めた後、2020年よりがん研有明病院・乳腺内科部長に就任。翌年から院長補佐も務める。同院の患者・家族支援部長、西日本がん研究機構（WJOG）乳腺委員長。

【注釈】 共催：BCシスターズ 、主婦ソサエティーオブハワイ
　　　　 協賛：Exact Sciences、Genentech、Novartis Oncology、 ニジヤマーケット
　　　　 後援：在サンフランシスコ日本国総領事館

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